4/12・ティンバーゲンの提言 | papirow(ぱぴろう)のブログ

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4月12日は、1961年のこの日、ガガーリン宇宙飛行士を乗せた世界初の有人宇宙衛星船が打ち上げられたのを記念した「世界宇宙飛行の日」だが、この日はまた、第一回目のノーベル経済学賞を受賞した経済学者、ティンバーゲンの誕生日でもある。
自分は、たまたま、ティンバーゲンの本を読んだことがある。冷静で、頭のきれる、人間的な人、という印象を受けた。

ヤン・ティンバーゲンは、1903年、ネーデルランド(オランダ)のハーグで生まれた。5人きょうだいのいちばん上だった。ノーベル生理学・医学賞を受賞したニコ・ティンバーゲンは実弟で、兄弟で別分野のノーベル賞を受賞している。
地元の高校を卒業後、ヤンはライデン大学に入り、数学と物理学を学んだ。大学在学中、彼は、カメルリン・オネス、ヘンドリック・ローレンツ、ピーター・ゼーマン、アルベルト・アインシュタインといったそうそうたる物理学者たちと討論したという(この4人は全員ノーベル物理学賞受賞者である)。
大学を出たティンバーゲンは、政府の統計局に勤めた後、33歳の年から、スイス・ジュネーブにあった国際連盟に勤務しだした。このころ、母国ネーデルランドと米国についての国民経済モデルを発表した。
第二次大戦後は、ネーデルランドの中央計画局局長、世界銀行顧問、途上国各国の政府顧問、国際連合開発計画委員会議長などを歴任。
国連にいた66歳のとき、経済政策の理論の発展につくした功績により、第一回目のノーベル経済学賞を受賞。
70歳のとき、ライデン大学教授に就任し、2年後に退官した。
1994年6月、故郷のハーグで没。91歳だった。

自分が読んだティンバーゲンの本は、『新しい経済』(清水幾太郎訳、岩波新書)である。
これは1963年に出たものだが、すごい本だった。1910年ごろから1960年くらいまでの半世紀にわたる世界の経済の歴史をざっと振り返って分析し、そこから導かれる、これからの未来の経済状況を展望し、さらに、どうしても悲観的になってしまうその未来展望をくつがえすべく、みずからこれから各国政府がとるべき経済政策を提案するのである。
この歴史をわしづかみにする大胆さに、自分は驚いた。この期間には、大恐慌があり、第一次、第二次の世界大戦があり、冷戦もあるのである。それをみごとにばっさりと。

この本のなかで、ティンバーゲンは、1960年当時の世界各国を、大きく三つに分けて論じていた。
まず、資本主義陣営の国家群を「西」。
つぎに、社会主義陣営を「東」。
そして、発展途上国群を「南」。
すると、わが国、日本はというと、はじめは「南」にいたのが、いつの間にか「西」に移動していたのである。ティンバーゲンはこう書いている。
「読者の注意を喚起すべきは、恐らく、過去数十年間の日本経済の驚くべき成長であろう。確かに、誰も日本を『南』の一国、低開発国とは見ていない。しかし、問題の期間の初め、一九一二年の日本は、まだ先進国のグループに入っていなかった」(『新しい経済』)
「先進諸国の経済なら三パーセントから五パーセントという率、低開発諸国の経済なら五パーセントから八パーセントという率が計画的な目標を立てる場合のルールのように思われる。高い目標というものは、それだけで非常に魅力的であろうが、誰でも知っている通り、その達成は大変に困難で、それが実現され得たのは、日本のような珍しいケースだけである」(同前)
よく、戦後の日本の経済復興は「世界経済の奇跡」と呼ばれるが、ティンバーゲンのような人に言われると、
「やっぱりそんなにめずらしいことだったのか」
と納得する。でも、もしも彼がいま生きていて、20世紀末からの日本経済を見たら、どう評したか。
「うーむ、やっぱり、あれは奇跡だった。まぐれだったのだ」
なんて言ったりして。

『新しい経済』のなかで、ティンバーゲンは、しきりに、全世界的な道徳の堕落を嘆き、核戦争の不毛を訴え、国際的な強力の必要性を訴えている。本文の底に、ヒューマニズムの線が一本通った内容で、自分はとても感心した。でも、経済学者らしく、情緒じみたことを一切言わずに、ドライな論理展開を通している、それでいて、ヒューマニスティックなのである。
ティンバーゲンはこんなことばを残している。
「人類の問題は、もはや国家政府によっては解決されない。必要なのは、世界政府である」(Mankind's problems can no longer be solved by national governments. What is needed is world government.)
(2013年4月12日)


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