4月4日は、『大菩薩峠』を書いた中里介山が生まれた日(1885年)だが、ロシアの映画監督、タルコフスキーの誕生日でもある。
自分は、タルコフスキー監督の映画は、「僕の村は戦場だった」「惑星ソラリス」「ノスタルジア」などを観た。
映画がはじまると、観ている人はすぐに、
「ああ、これは、明らかにほかの監督とはちがう感性の持ち主が撮った映画だ」
とピンとくる、それほど個性の強い映画監督である。
アンドレイ・タルコフスキーは、1932年、ロシア(当時ソビエト連邦)のヴォルガ川流域、イワノヴォ地区のザブラジェで生まれた。父親は詩人だった。
貧しい家庭環境のなか、不良少年だったアンドレイは、1954年、22歳の年に全ソ国立映画大学に入学。
大粛清をおこなった独裁者スターリンは前年の1953年に亡くなっており、ソ連には西欧、米国の文化が流れ込んで「雪解け」の時代だった。そんな時代の空気のなかで、学生だったタルコフスキーは、ヘミングウェイ原作の短編映画「殺人者」を撮った。
卒業制作で撮った短編「ローラーとバイオリン」が、ニューヨーク国際学生映画コンクールで第一位。
30歳のころに撮った初の長編「僕の村は戦場だった」は、ヴェネチア国際映画祭でサン・マルコ金獅子賞を受賞。
40歳のころ、代表作「惑星ソラリス」。キューブリックの「2001年宇宙の旅」と並んでSF映画の双璧をなすと言われるこの映画で、カンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞
51歳の年に、イタリアで撮った「ノスタルジア」でカンヌ国際映画祭監督賞。
52歳の年に、「サクリファイス」の準備中だったイタリアで、「自分はもうソ連にもどらない」と亡命を宣言。
難解すぎるとの非難や、ソ連当局側による検閲と闘いながら、芸術としての映画に固執して作品を撮りつづけた。
ソ連ではゴルバチョフによるペレストロイカが進み、ゴルバチョフはタルコフスキーの名誉快復と帰国要請の声明を出したが、タルコフスキーの帰国は実現しなかった。
1986年、「サクリファイス」でカンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを受賞し、同年12月、仏国パリで没した。54歳だった。
ほかの映画作品に「アンドレイ・ルブリョフ」「鏡」「ストーカー」などがある。
「僕の村は戦場だった」は衝撃的な映画だった。とくに最後の、心臓によくないラストシーンの強い印象は、忘れられない。
「惑星ソラリス」は、自分はDVDを持っていて、何度も観ている。この映画には、東京の首都高速道路が未来都市の道路網として登場して、とくに日本人には興味深い映像表現となっている。
とにかく長い、悶々とした雰囲気の映画で、なんとも言えない大きな存在感をもって、どっしりとすわって動かない、そういう感じのする作品である。ソラリスという惑星の周回軌道に乗っている宇宙ステーションでなんらかの問題が起き、主人公がその解決のためにロケットで旅立つのだけれど、その旅立つまでが延々と長くて、すごいと思う。ハリウッド映画にはけっしてまねできない、あの重苦しい悠長さこそが、おそらくタルコフスキー作品の真骨頂なのだろう。自分など、観ていてうっとりしてしまう作品で、この映画も、ラストシーンがすばらしい。
自分としては、SF映画の最高傑作というなら、ニコラス・ローグ監督、デヴィッド・ボウイ主演の「地球に落ちて来た男」と、この「惑星ソラリス」を挙げる。
タルコフスキーの最高傑作とも言われる「ノスタルジア」となると、正直、自分にはよくわからない。
「ああ、やっぱり、タルコフスキーだ。タルコフスキー色で塗りつぶされたような映画だ」
というのは、わかるのだけれど。
以前、タルコフスキーのファンだという女性がいて、「ノスタルジア」のどういうところがいいのか尋ねてみたら、彼女はこう言っていた。
「ああ、あれは、いいです。もう、『ノスタルジア』を観ると、わたし、とびますね」
それで、結局、どこがいいのかは、よくわからないままなのである。
自分がまだ観ていていない、核戦争を扱った作品「サクリファイス」と同じく、いつか観て、また自分の感受性を試したいと思っている、自分にとっては課題作品である。
ソ連国内でよりも、国外で世界的に評価された監督だった。
タルコフスキー作品は、どれも個性的で、寡黙で、映像がとても美しい。映し出された広がる無音の風景のなかに、監督の息づかいが聞こえてくる、そんな映画である。監督が、映画を純粋な芸術として信じていたのだとよくわかる。外野の意見に耳を貸さず、わき目もふらず、目の前のものを遮二無二信じこむことができる。こういう人を、天才と呼ぶのかもしれない。
(2013年4月4日)
●おすすめの電子書籍!
『4月生まれについて』(ぱぴろう)
タルコフスキー、ミラン・クンデラ、ダ・ヴィンチ、ブッダ、カント、ウィトゲンシュタイン、ランボルギーニ、忌野清志郎、吉田拓郎など4月誕生の30人の人物論。短縮版のブログの元となった、より長く、味わい深いオリジナル原稿版。4月生まれの存在意義に迫る。
www.papirow.com