3/5・周恩来のエレガンス | papirow(ぱぴろう)のブログ

papirow(ぱぴろう)のブログ

Something to remember today. 今日の日が流れて消え去ってしまう前に。

ゴロ合わせで「珊瑚の日」だという3月5日は、独国の革命家、ローザ・ルクセンブルク(1871年)が生まれた日だが、中国の政治家、周恩来(ヂョウオンライ)の誕生日でもある。
自分が子どもだったころ、日中国交正常化が成ったときのことはよく覚えている。いつもはテレビのチャンネル権を孫たちに譲って、ゴールデンタイムにはほとんどテレビをみなかった祖父が、その日だけは、
「これは見ておかないといかん。これは、日本にとって、ものすごく大事なことだ」
そういって、チャンネルを、中国、北京からの衛生生中継に固定し、変えなかった。
テレビ画面には、中国、北京での晩餐会の模様が映し出されていた。
なんだか豪華な、広い食堂で、年寄りが集まって、ごちそうを食べていて、とぎどき誰かが、マイクのところに立って、あいさつを述べる、というような映像が延々と続いた。変化にとぼしい、子どもにとっては、あまりおもしろくない番組だったが、祖父につきあって、自分はながめていた。
画面のなか、田中角栄首相と、大平正芳外相、そして中国側の首相が同じテーブルにすわっていた。田中首相が暑苦しそうに、しきりに扇子を使って顔に風を送っていた。
中国の首相が箸で、田中首相に料理をとりわけると、そこにテレビ局側の解説が入って、これは中国では、大事なお客をもてなす意味をもっています、というような説明があった。
みていて、子ども心に思った。
「日本から行った政治家はなんと柄が悪い連中だろう。それに比べて、あの中国人は、なんと品がいいのだろう」
それが、はじめてみた周恩来首相の印象だった。

周恩来は、1898年に、中国の江蘇省淮安に生まれた。出身は清朝の官僚の家系だった。
辛亥革命起き、清朝が崩壊し、中華民国が成立したのが、彼が13歳のとき。
欧州で第一次世界大戦が勃発したのに乗じて、日本軍が当時ドイツの支配下にあった山東、青島に進軍し、日本政府が中国に対して、21カ条の無理難題をつきつけてきたのが、16歳のとき。
中国国内は、各地に軍閥が割拠して、国はばらばらになっていた。革命と動乱。そして混乱に乗じて侵略を目論む日本。周恩来が多感な思春期をすごしたのは、中国がそんな風に目茶苦茶になっていた時代だった。
19歳のとき、周恩来は留学のため来日している。明治大学などに通い、日本で2年ほどすごした後、21歳のときに帰国した。彼の帰国直後に、中国では五・四運動(排日運動)がはじまり、周恩来も学生を率いて排日運動に身を投じた。
周恩来はその後、毛沢東の紅軍と合流し、長征に参加。以後、ずっと毛沢東を支えていくことになる。
1949年、中華人民共和国が成立すると、周恩来は、国務院総理(首相)に就任。
1976年1月、膀胱ガンにより没。77歳だった。

周恩来は、もちろん一面的な解釈が通用する単純な男ではないが、ひと口に言えば、やはり圧倒的に親日家だった。
自分の国を侵略し、破壊と残虐の限りを尽くした日本人に対して、信じられないくらいにやさしかった。
「悪いのは日本軍国主義であり、日本人もその犠牲者である」
「日本戦犯を『鬼』から『人』に変えられるかどうか、中国文化の知恵と力が試されている」
「憎しみの連鎖を断ち切らなくてはならない」
そう説いた彼の意見のおかげで、戦後の中国側でおこなわれたB級、C級戦犯の量刑についても、彼のおかげでずいぶん多くの日本人戦犯が命を救われている。
自国に攻め入られ、街を完膚亡きまでに爆撃され、村を焼きはらわれ、同胞を強姦され、虐殺され、さんざん人体実験に使われた、そういうやりたい放題をしていった人非人の民族に対して、こういう寛大な態度で接することができる人は、そうはいないと思う。同じ立場に立ったとして、日本人は敵を許せるだろうか?
しかも、日中共同声明では、戦争の賠償金まで放棄している。日本軍によって、数百万人の中国人が殺されているというのに。
日本が戦後、経済復興できたのは、いろいろな要因があるけれど、ひとつには、周恩来たち中国政府の中枢にいた親日派が、日本に対して寛恕の心をもって接してくれたことが確実に一因としてあると思う。

米国ニクソン政権のキッシンジャー大統領補佐官は、周恩来をこう評したそうだ。
「上品で、とてつもなく忍耐強く、並々ならぬ知性をそなえた繊細な人物」
カンボジアのシハヌーク国王は、共産党嫌いで有名だったが、周恩来だけはこう言ってほめたそうだ。
「だって、彼のほうが私よりよっぽど王族らしいじゃないか」

周恩来のもっていた、優雅さ、礼儀正しさ、謙虚さといった「徳」は、おそらく多くの日本人が本来、日本人にもっていてほしいと願ってきたし、いまもそう願っているものなのではないか。
でも、現代の日本に、そういう「徳」をもった日本人が、何人いるか、と考えると、ちょっと考えてしまう。
(2013年3月5日)



●おすすめの電子書籍!

『3月生まれについて』(ぱぴろう)
周恩来、芥川龍之介、黒澤明、ジョン・アーヴィング、スティーブ・マックイーン、ゴッホなど3月誕生の31人の人物論。人気ブログの元となった、より詳しく深いオリジナル原稿版。3月生まれの秘密に迫る。


www.papirow.com