1/14・魅惑の三島由紀夫 | papirow(ぱぴろう)のブログ

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1月14日は、作家、三島由紀夫の誕生日である。
自分はずっと前から三島由紀夫が好きで、小説や戯曲も読んだし、その人となりについて書かれた本も読んできた。
でも、彼の作品ののなかでも重要とされているもののいくつかをまだ読んでいないので、三島由紀夫について語ろうとすると、読みかけの本の感想を中途半端につぶやく、みたいな感じに、どうしてもなってしまう。
学生のころから、まわりに三島ファンは多くいて、その連中が、ちょっと水を向けると、急に熱くなって、熱病にうかされたように三島由紀夫について語りだすので、誘ったこちらがかえって白けてしまい、それであまり積極的に読んでこなかった部分もある。
愛読者の首根っこをわしづかみにして離さない、ほかの文学者とは明らかに異なる、三島由紀夫独特の、あの強烈な魅力とは、いったいなんだろう、と思う。

三島由紀夫、本名「平岡公威(きみたけ)」は、1925年1月14日に、東京で生まれた。
祖父は元樺太庁長官、父親は元農林省水産局長という、官僚一家の長男だった。
子どものころから文学好きで、16歳のとき、同人誌に、三島由紀夫のペンネームで「花ざかりの森」を発表。
20歳のとき、徴兵を受けたが、入隊のための健康診断で落とされ、即日帰京。
22歳で東大法学部を卒業し、大蔵省に入省。
23歳で大蔵省を退職。以後、作家活動に専念。
24歳のとき、『仮面の告白』を発表。以後、つねにマスコミの注目を浴びる流行作家として、話題作をつぎつぎと執筆。
1970年11月、45歳のとき、みずからが作り率いた「楯の会」のメンバーとともに、自衛隊の市谷駐屯地に乗りこみ、総監を人質にとり、総監室にたてこもる。バルコニーにでて、自衛隊員にクーデター決起をうながす演説をした後、それがいれられないと見るや、総監室にもどり、割腹自殺。
エリートの家庭に生まれた秀才のエリートだったが、文学と政治に走ったために、派手な、そして過激な人生を歩んだ。
その生きざまが、三島神話とでも呼ぶべき魔法めいた魅力とになって、その作品の魅力をさらに増し、読者を惑わせ、酔わせるのかもしれない。

さて、三島作品をまだ読んでいない人には、なにがおすすめかというと……だいぶ以前に、三島由紀夫の最後の四部作である『豊饒の海』の第一部『春の雪』を映画化した映画「春の雪」をみた。2005年の作品だった。
映画が悪いわけではないのかもしれないが、原作がよすぎてしまって、とてもみていられなかった。
自分は、それくらい、小説『春の雪』は名作だと思っている。
文章が流麗で、しかも部分部分はかっちりと明晰で、話の展開がおもしろく、情緒豊かで、場面場面が印象的で、もう、いうことはなにもありません、といったすぐれた作品である。
川端康成も『豊饒の海』の第一部『春の雪』と、第二部『奔馬』を読んで、『源氏物語』以来の日本小説の傑作だと思った、と書いている。(「三島由紀夫」『川端康成全集 第十五巻』新潮社)
自分の友人で、美術大学の講師をしている人が、こんなことをいっていた。
「やっぱり『春の雪』が三島由紀夫の最高傑作だと思うね。ほんとうは、『豊饒の海』といいたいところだけど、やはり第三部のあたりから、物語を壊してしまうところがあって、それが現代作家なのだろうけれど、それで、やはり第一部の『春の雪』だけ、と」
『春の雪』を読んで、名作だといわなかった人を、自分はまだ知らない。

三島由紀夫本人に聞けば、もちろん全集を全部読んでくれというだろうけれど、こんなことを書き残している。
「かつて私は『もし、忙しい人が、三島の小説の中から一遍だけ、三島のよいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのような小説を読みたいと求めたら、『憂国』の一遍を読んでもらえればよい』と書いたことがあるが、この気持には今も変りはない」(三島由紀夫『花ざかりの森・憂国』新潮文庫の解説)
そうかもしれない、と思う。
自分も『憂国』は、青春とかエロスとか武士道とか、いろいろな三島的要素が詰まった、みごとな短編だと思う。

あるいはまた、出世作の『仮面の告白』も、おすすめの作品である。
「永いあいだ、私は自分が生れたときの光景を見たことがあると言い張っていた」(『仮面の告白』新潮文庫)
という冒頭の一文から、
「一団は踊りに行ったとみえ、空っぽの椅子が照りつく日差のなかに置かれ、卓の上にこぼれている何かの飲物が、ぎらぎらと凄まじい反射をあげた」(同前)
という最後の一文まで、一分のすきもない、緊張感が張りつめた、ため息がでるばかりの傑作である。
たしか、この作品は、三島由紀夫が大蔵省を辞めて、小説家として一本立ちする決意を固め、そのときに書き下ろした、彼としては、これからの作家人生の行方をこれに賭けたという一作で、そうした気迫、集中力が伝わってくる気がする。
もちろん、発表された直後から絶賛を浴び、三島由紀夫はこの作品でいきなり文壇の頂点にその位置を占めたのだった。
吉行淳之介も、発表当時に読んで、
「脱帽した」
といっていた。

戯曲では、あまりみんなは推さないようだけれど、自分は『わが友ヒットラー』は、おもしろく、まさに劇的にできていて、とても感心した。ただ、ナチス党の発展の経緯をまったく知らない人には、わかりにくい部分もあるかもしれない。

三島由紀夫は、人気作家として走りつづけ、たくさん作品を書いているので、『禁色』『永すぎた春』『金閣寺』『美徳のよろめき』『宴のあと』『鏡子の部屋』などなど、ほかにも話題作、問題作が目白押しで、とりあげだすときりがないけれど、まだまだ読んでいないものが多いし、自分が自信を持っておすすめできるのは、以上にあげた作品である。

三島由紀夫については、その死、理想など、書きたい意見や見解がいろいろたくさんある(こうしてみると、友人たちが熱くなった気持ちもわからないでもない)。
ただひとついわせてもらうならば、自分はとにかく、彼が若くして亡くなってしまったのが、とても残念である。
四十歳にしてすでにノーベル賞候補だった世界的な作家で、とにかく文章がうまかった。
古くからの伝統ある日本語がからだに入っているのは、自分のジェネレーションが最後だ、とみずからいっていた三島由紀夫が、もっと長生きして、60歳とか70歳になって、どんな枯れた味わいの文章を書いたか、あるいは、どんな天衣無縫の文章を書いたか、と想像すると、読んでみたくてたまらず、その若い死がほんとうに残念でならない。
(2013年1月14日)


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