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sakebar/2003_03_12 早春

バーテンダーは特別な季節感を大事にしています。ぼくはその彼の美的感覚を
上手く読者に伝えなければなりません。読者は知的好奇心豊かな女性。手強いです。

SAKEBAR2

「“気霄れては風新柳の髪を梳る
 心消えては浪旧苔の鬚を洗ふ”

 都良香『和漢朗詠集』の『早春』から。
 空が気持ちよく晴れて、風が佳人の髪の様な新芽の柳を櫛梳る様に吹いている。氷は溶けて、
さざ波が岸の苔を洗う眺めは、伸 びっ放しの去年の古いあごヒゲを洗うようだ、という意の佳句。
 「気」と「氷」、「風」と「浪」、「新柳」と「旧苔」、「髪」と「鬚」、「梳る」と「洗う」。
対照で成り立つ対句技巧の妙です。あまりの詩の見事さに羅生門楼上の鬼が聞き付けて、感銘して
「あはれあはれ」といった伝承がありますが、まぁ、難しい話はさておき、春の気持ち良さが伝わっ
て来ますよね。

 もうすぐ花々が咲き誇る平安の都本番の春ですが、私は蒼青とした気持ち良さを持つ清廉な早春が
好きです。この時期、奈良東大寺で行われるお水取りも、しみじみと静かに「春開く」感じがありま
すよね。」