久々に再会した同級生は拒食症でした。 | 高校中退者が塾長になった話。

高校中退者が塾長になった話。

都内の私立高校を半年で中退し、その後10年のブランクを経て、高校卒業程度認定試験を取得。大学に進学。紆余曲折あり、塾長になった話。

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とてもじゃないが、

充実してたとは言えない中学時代。


小中学校が一緒のとある同級生は

クラスの人気者だった。


小学校に入りたての頃、何度か遊んだが、

クラスが一緒になったことはなく、

なんとなく疎遠になっていた。


彼女と仲良くなる日は突然来た。


私の親の職場に、

彼女の親戚が偶然勤めることになり、

家族絡みでの付き合いをするようになった。


学年が上がるにつれて

クラスが異なる彼女とは、

やっぱり疎遠になっていった。


私がいじめられていたことや、

不登校だったことは

おそらくそこまで知らなかったと思う。


みんなから憧れの的であった彼女は、

芸能関係の卵として

高校卒業後はアルバイトをしながら

夢を追いかけていた。


顔立ちが派手で、

台湾とのハーフであった彼女は、

友達がいっぱい居た印象があった。


中学卒業後、高校を中退し、

フラフラしていたとき、

私はとあるSNSで彼女を見つけ、

気まぐれに連絡を取ってみた。


お互い実家に住んでいたので、

再会することは容易かった。


久々に会った彼女は、

大きく変わっていた。


芸能活動は順調であり、

今はもう終わってしまったお昼の長寿番組に

ゲストで出演が決まったところだった。


キラキラした彼女を応援しようと思ったが、

現実は違った。


長年飼っていたペットを亡くし、

ペットロスから精神状態が悪くなり、

食べ物を食べられなくなっている彼女が

そこには居た。


地道に頑張ってきた芸能活動が

ようやく軌道に乗り、周りからも祝福され、

輝いていた彼女は、どんどん弱っていった。


弱さを見せないように、

仲間内で憧れの的で在り続けられるように、

彼女は必死で周りに症状を隠す一方で、

誰にも打ち明けられず、

関係性が浅い私に全てを打ち明け、

心療内科に付き添ってほしいと言ってきた。


拒食症になっていた彼女は、

体重がどんどん減り、

遂には成人女性とは

思えない体重にまで痩せていった。


体重が軽すぎると精神安定剤の処方は

難しくなるらしく、

彼女はついに拒食症治療で有名な病院に

入院することになった。


その頃、アルバイトに明け暮れていた私は

バイトのシフトの合間をぬって

彼女のお見舞いに行った。


「初めてお見舞いに来てもらえた」

彼女はそう言った。


周りの親しい友達は彼女に

「いつでも話聞くよ」

「いつでも飛んで行くから」

と口々に言ったが、

お見舞いには誰一人として来なかった。


それどころか一緒に住んでいるはずの

家族でさえ、お見舞いに行かなかった。


お見舞いに行き、

彼女の洗濯物を回収し、彼女の家に届け、

洗濯された服を持って、

頼まれたレンタルDVDを届ける日々。


病院内でもやっぱり彼女は人気者になり、

つまらないはずの入院生活の話も、

彼女のトーク力で楽しく聞ける日々に

特に違和感は感じていなかった。


いつものようにお見舞いに行ったある日、

それは突然言われた。


「もう来なくていいから。」


退院が決まったらしい。


言い方…と少し思ったが、黙っていた。


退院後は違和感の連続だった。


急に「ダイエットをする」と言い始めた彼女を

周りの誰一人として止める人は居なかった。

友達も、家族も。


拒食症で入院したのに。

薬が処方できないくらい

軽い体重になってしまったから入院したのに。


彼女の周りには、YESマンしか居なかった。


彼女の言うことを

みんな口々に「いいね」と言うばかり。


本当にみんな心配してるの??


そう思ったが、言えなかった。


アルバイトを辞め、

芸能活動も休止して入院してた彼女は、

掛け持ちでアルバイトを

新しくいくつも始めると言い出した。


病み上がりなのに?

そんなに急に新しいことを

いくつも始めて大丈夫なのかな?


周りはみんな応援するばかり。

だって彼女の周りには

YESマンしかいないから。


新しいアルバイトは、

数日でクビになったと聞いた。


ある日突然、彼女から連絡が来た。


「私はもう大丈夫だから、

あなたは自分のことを

ちゃんとした方がいいよ。」


なんでそんなことを

言われなきゃいけないんだろう。


たしかに私はフリーターで、

夢も希望もなく、日々を過ごしていた。


彼女に「何かをしてあげている」という感情は

感じたことがなかった。


だが、今まで蓄積されてきた違和感が

噴き出した。


なんで友達たくさんいるのに

誰も助けてくれなかったの?


なんで久々に連絡取った私が

お見舞いの面倒を全て見て

「いつでも駆けつける」と言っていた子たちは

誰一人として来なかったの?


なんで家族は助けてくれなかったの?


彼女からの連絡が来れば

夜中だろうが自転車で家に駆けつけて

話を聞いた。


次の日、バイトがあっても構わず行った。


毎日毎日、夜中から朝まで話を聞いて

寝ずにバイトに行ってた。


それで

「人のこと心配する前に

自分のことちゃんとしたら?」

と言われたことに腹が立った。


「私、あなた以外にも

友達たくさんいるの。

あなたはいなくてもいい。」

と言われたことに腹が立った。


もういいや。


そう思って彼女との縁を切った。


しばらくして、中学卒業以来、

連絡を取っていなかった彼女の友達から

突然、電話が来た。


「なんでアイツを見捨てたんだよ。」


「は?じゃあ私と同じことしてみろよ。

出来ないくせに偉そうにガタガタ言うな。」


そう言って私は電話を切った。


彼女からの連絡は無視し続けた。


数ヶ月が経ち、

私が高卒認定試験の受験勉強を始めた頃、

久しぶりに彼女から連絡が来た。


「あの時はごめんなさい。

今までしてくれたことに本当に感謝してます。

また会ってくれませんか。」


その連絡に私は

「自分のことを頑張ってるので

もう連絡しないでください。

さよなら。」と返した。


その後、

私のバイト先に乗り込んできたことが

あったけど、追い返した。


彼女とはもう5年くらい連絡を取っていない。


先日、とあるSNSの「友達かも」に出てきて

少し覗いてみたが、

芸能界は完全に引退して結婚したようだ。


そんな小話をふと思い出した。