『去年の冬、きみと別れ』 中村文則/著 | パンダの日記「パンダ日和」 by pandaosaco

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何が必要で、何が大切なのか――?
時に初心に立ち返り、自身の傲慢・慢心へ問いかける。
それが全ての糧となると信じて (C)Pandaosaco

 
 今回も初めての作家さん。
 アメトーークの読書芸人で若林さんが度々中村さんの小説を紹介していて、ずっと気になっていました。
(紹介していたのは別の小説ですが。)


背景(机)と文庫の色合いが似すぎて溶けてしまった

 こちら、ミステリー。
 或る事件の犯人(とされる人物)と彼を小説にするために取材する作者。
 そして彼らに関わる人物たち各々の視点から、物語は綴られていきます。

 誰の視点だよ、とは書いていないので、其処は憶測で読み進めるのですが、次第にそれは矛盾していき、間違いに気付きます。

 これを語る『君は誰だ?』
 その思いがけなさに、驚くことが多かったな。

(ミステリーなので、これから読む方の為にネタバレはしないでおきます。)


 此処にあったのは、ズバリ『執着』。

 一人の人を深く愛したり、何かにのめり込むという事は、常に狂気との表裏一体なのでしょうか?

 写真家である木原坂雄大に撮られた被写体が自分を切り取られたような気持ちになったり、

或いは、愛する人間そっくりに作られた人形から「本物を殺してしまえ」と告げる幻聴を聴いたり、

油断しているとこの極端で独特な世界に吸い込まれていきそうで、グロテスクな表現があるわけでもないのに、薄気味悪くて恐怖を感じました。

 そして、何だか分からないけれど、とっても陰鬱な気持ちになりました。


 恐らく、とても面白い。
 驚きの連続であり、最後の最後にも???があった。
(ちゃんと読み返したら分かる。)

 私が気付いていない仕掛けが、まだまだあるかもしれない。
 

 だけど、彼らの心の闇は重く、精神的に苦しくて、一端読了ってことで。

 闇に飲み込まれないくらいに楽観的な気分な時期に、再読しようと思います。
(文庫にして、僅か8㎜程度の厚みなので。)