黄 昏 ハ ン ド メ イ ド 。

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耕 せ ば ま た よ み が え る 星 だ か ら ぼ く ら は 両 手 を も っ て 生 ま れ た

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「手紙は憶えている」

原題:Remember
公開:2015年
製作国:カナダ、ドイツ
監督:アトム・エゴヤン
脚本:ベンジャミン・オーガスト
出演:クリストファー・プラマー
         ブルーノ・ガンツ
         ユルゲン・プロホノフ


かつてアウシュヴィッツ収容所で一緒だった老人2人が、家族を殺された恨みを晴らすため、その犯人である元ナチスの“ルディ・コランダー”に復讐を果たそうとする物語。


近年様々な形でホロコーストやナチスドイツを扱った作品が制作されているが、この作品も新たなアプローチでホロコーストを描いている。

主人公は初期の認知症を患った90歳の老人ゼブ。

彼は眠ると記憶を失ってしまい、目覚めるたびに亡き妻の名を呼び探してしまう。

そんなゼブに、同じ老人ホームで暮らす友人マックスが手紙を渡す。

そこには、かつて自分たちの家族を奪った元ナチスの“ルディ・コランダー”を探し出し、復讐するという計画が書かれていた。


老人の復讐劇というのは、実に切ない。

目覚めるたびに記憶を失くし、妻を探すゼブの姿は弱々しく頼りない。

しかし彼は過去の恨みを確かめるように、何度も記憶を失っては手紙を読み返し、復讐の炎を消すまいとする。

まるでそれが、最後の生きる望みのように。


サスペンスとしてもよく出来ているが、ストーリー性がさらに素晴らしい。

ラストに驚いたあとには、自分を見つめ直したくなるようなメッセージが浮かび上がる。

そして、歴史の傷跡の深さを思い知る。

クリストファー・プラマーをはじめ、ベテラン俳優たちの重みのある演技も素晴らしい。

直接的なホロコーストものが苦手という人にも是非観てもらいたい作品。




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「別離」

原題:Jodaeiye Nader az Simin
公開:2011年
製作国:イラン
監督:アスガー・ファルハディ
脚本:アスガー・ファルハディ
出演:レイラ・ハタミ
         ペイマン・モアディ
         シャハブ・ホセイニ


娘を連れて外国に移住したい妻と、アルツハイマーの父のためイランに残ろうとする夫。

人々のすれ違いと小さな嘘から生まれる、かなしみの連鎖の物語。


「セールスマン」公開に合わせて地元の映画館で上映してくれたので、大きなスクリーンで観ることができた。

高い評価を得ている作品だが、その期待を裏切らず、鑑賞してから時間が経つほど染み渡ってくるような、素晴らしい作品だった。


ある夫婦の間に生じた亀裂から、この物語は始まる。

相容れない2人の主張。そして妻は家を出て、仕事で父の面倒を見られない夫は家政婦を雇う。

しかし家政婦としてやってきた女性も多くの問題を抱えている。

それはやがて、取り返しのつかない事態を招く。


離婚問題、介護問題、そして大人の犠牲になる子ども。普遍的なテーマの中に、イランという国の内情をうまく絡めている。

まだまだ自由に表現することの出来ないイランで、多くのメッセージを見事に芸術として昇華させている。

ラストシーンの構図は象徴的でとても印象深い。

分かりやすさばかりを追求する商業映画の中で、もう一度映画を芸術へと引き戻すような、そんな力強ささえ感じるような作品だった。




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「或る終焉」

原題:CHRONIC
公開:2015年
製作国:メキシコ
監督:ミシェル・フランコ
脚本:ミシェル・フランコ
出演:ティム・ロス
         ビッツィー・トゥロック
         サラ・サザーランド


命の期限を目前に控えた終末期の患者たちと、彼らを献身的にケアするひとりの看護師の物語。


近年日本でも、QOLや終末医療という言葉をよく聞くようになった。

意識も無いままたくさんのチューブに繋がれて生かされるよりは、最期まで人間らしく生きたい、そう思うのは人として当然とも言える。

しかし、それを支える周りの人たちの苦労は計り知れない。

例えば家族が「自宅で死にたい」と願っても、様々な理由からそれが実現されないこともまた、現実である。


主人公の看護師デヴィッドは、そんな終末期の患者たちを訪問し、ケアを行っている。

テキパキと仕事をこなしながら、決して事務的にはならず、患者にとって心地よい距離を知っている、そんな看護師だ。

しかしデヴィッドがどんな人間なのか、という視点で見ると全く分からない。

なぜ終末期の患者のケアをしているのか、なぜそこまで献身的になれるのか、誰もが疑問に思うだろう。


一貫してデヴィッドを追うカメラは、次第に彼の過去や抱える歪みのようなものを映し出していく。

しかしそれは決定的なものではなく、いつまでも靄がかかったままだ。

そして訪れる突然のラスト。

ここがどうも私は好きになれなかった。

ちょっと狙いすぎというか、終わらせようという気持ちが透けて見えるようだった。


とはいえ、終末医療への光の当て方はとても素晴らしかったし、空気感も好みだった。

特に娘をつけ回すシーンは秀悦。

まだ長編をあまり撮っていないようなので、今後の作品にも期待したい。