オリ・パラをきっかけに、ダイバーシティの意味や企業のダイバーシティ経営について色々書いたら、読んでくれた友達(Aさん)から「でも、ダイバーシティって、めんどくさいよね」というコメントをいただいた。なぜなら、ダイバーシティの裏には、「何を以て公正(フェア)とするか」という哲学的(?)問いが鎮座しているからだ。

 オリ・パラに限らず、スポーツ全般にとって「公正なルール」は絶対不可欠だ。公正な競争をするために、公正なルールを規定し、それを公正に運用する。
 例えば車いす陸上では、体幹の筋肉を使えるかどうかが、根本的に影響するそうだ。根本的な機能にちがいのある人同士が競い合うのはフェアではないので、クラス分けの際、その手のルールを厳密に規定しているらしい。
 ここで大切な「公正さ」は、「ちがい」をできるだけ厳密に定義し、客観的に測定することだ。

 一方企業では、ちがう人たちがいっしょくたになって目的達成に向けて協力し合うわけなので、「ちがい」を厳密に定義する必要は、さほど大きくないはずだ。より重要なのは、目的達成という結果に対する一人ひとりの貢献度を公正に評価することである。
 ところが、これがすごく面倒くさい。
 結果に対する貢献度と言ったって、そもそも結果自体が、400m走の「46.61秒」やサッカーの「3対1」といった数値で明示されるわけではない。
 ましてや誰がどれだけ貢献したのかを定量化することは至難の業。そういう意味ではサッカーだって、ゴールを決めた選手と、パスを送った選手と、試合全体で相手方シュートを阻んだゴールキーパーと、誰がどれだけ貢献したかの判断は困難だ。けれど、少なくともチーム全体としての勝敗は、明らかに白日の下に晒される。
 翻って、スポーツとは異なる活動に従事している企業では、多様な社員一人ひとりの貢献度の公正な評価は、本当に難しい。

 それでは、企業は、この「公正さ」の問題にどう対処してきたか。
 ぶっちゃけ言えば、ちゃぶ台返し(笑)
 「社員一人ひとりが多様な能力を持ち、多様なかたちで貢献している」という部分をまるっと無視して、十羽ひとからげに、社員は基本「みんなおんなじ」ということにして、目にみえるわかりやすい違いだけをベースにした「公正さ」をベースに、処遇してきたのである。
 もちろん、1人ひとり丁寧に「公正に」評価する会社もあるけれど、多くの企業では、多かれ少なかれ「十羽ひとからげ」モードである。学歴によって新卒の初任給を決める。男性と女性で給与に差をつける。同じ仕事をしていても、正社員と非正規社員では、給料も諸手当も異なる。同じ学歴・同じ勤続年数の人たちは一律ベースアップ。年功序列。などなど、伝統的な方法である。

 多様性の活用が時代の要請となっているのに、そこに不可欠であるはずの「公正な評価」が伴っていない。
 ダイバーシティ経営の道は、本当にめんどくさい。
 どれだけめんどくさいのか、実例を教えてくれたのは、冒頭に登場したAさんである。

                                    ・・・(中)に続く