オリ・パラは、スポーツを愛する世界中の多様な人々をIncludeする、究極のDiversity & Inclusion(D&I)である。前回のブログで、この意味合いについて詳しく考えてみた。
 考えていくうち、ビジネスの世界で最近盛んに言われているD&I、より厳密には経済産業省が提唱する「ダイバーシティ経営(*)」は、オリ・パラのD&Iとは、ちょっと意味合いが違うことに気づいた。
(*)経産省は、ダイバーシティ経営を「多様な人材が持つ能力を最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげる経営」と定義している

 まず、オリ・パラが擁する競技種目・クラスは「多様」だけれど、“各種目・クラス”にIncludeされる選手は、基本的に「同じ」属性や機能を持つ人たちである。それに対して、ビジネス社会におけるD&Iとは、「企業」という1つの“チーム”にIncludeされる社員たちが「多様」であることを意味する。
 オリ・パラは、「混合」と銘打った種目以外は、基本的に全て男女別だし(ここでLGBTの問題が生じるわけだが、その話は別途)、パラ陸上400mでT52とT53の選手が一緒にIncludeされることはあり得ない。一方、企業が推進すべきD&Iでは、男も女も、T52・T53的な機能の違いのある人たちも、みーんなひっくるめて1チームにIncludeしちゃいましょう、という考え方である。

 この違いはなぜ生じるのか?
 それは、オリ・パラと企業では、その「目的」が違うからだ。
 

 オリ・パラの最大の目的のひとつは、端的に言えば「勝ち負けをつけること」である。もちろん、それだけではないけれど、各競技の締めはやっぱり金銀銅メダルの表彰台であり、選手たちはみな自分の属するクラスで1番になることを目指してひたすら頑張る。
 勝敗を決する競争である以上、その競争能力に根本的に影響する属性や身体機能が違う人同士が競うことは、フェアではない。伊藤智也選手が、50m9.3秒の小学生の私に勝っても、そんな競争には何の意味もない。選手同士がフェアに互角に戦えるよう、属性や機能を「同じ」に揃えておくことが不可欠なのだ。
 多様な人々がいるからこそ、そしてその人たちが自分に合ったクラスでフェアな競争ができるよう、多様な種目が用意される。人々のダイバーシティは、言ってみればオリ・パラの「前提」と言えるのではないか。

 一方、企業の目的は、社内の社員同士を競い合わせ、勝ち負けをつけることではない(そう勘違いしている人も、いないではないが…)。社員一丸となって企業が掲げる理念を実現し、目標を達成し、企業価値を上げることが、基本的な目的である。そして、そういう目的を達成するために、「多様な人材」が持つ「多様な能力」を最大限活用しましょう、というのがダイバーシティ経営の考え方である。
 つまり企業にとっては、ダイバーシティは、目的達成に活用できる、有効な「手段」なのだ。しかもここで重要な「多様性」とは、性別や年齢や国籍といった「属性のちがい」ではなく、社員一人ひとりがもつ「多様な能力」なのである。        ・・・(中)に続く