「心理的安全」という言葉は、Googleが2012年から取り組んだチームの生産性向上プロジェクトで一気に有名になったようだが、最初に提唱したのは、Amy Edmondsonというハーバードビジネススクールの教授である。
心理的安全とは、チームのメンバーが、チームの中で対人関係面でのリスクを冒しても安全だ、大丈夫だ、という信念を共有していること。
こうした安心感があれば、メンバー同士が、内省と行動のプロセス、つまり;
- 自分の無知を恥ずかしく思うことなく、わからないことを率直に質問し、
- 積極的にフィードバックを求め、
- 失敗を恐れず果敢にトライアル&エラーを行い、
- その結果について真摯に内省し、
- 過ちや、予想外の行動結果についてチーム内で率直に話し合い、
…といった行動を繰り返し、チームとして学習し続けることによって、成果を上げることができる、とされている。
多元的無知との関係で言えば、心理的安全があれば;
- 周りの人の行動理由について、「対応バイアス」により誤って推測したりする前に、率直に「どうしてやることなさそうなのに残業するの?」と質問できる。
- 上司や同僚からの否定的な評価を気にして、わざわざ自分の印象をよくしようとする「印象管理動機」を発動する必要はない。
- 「認知的不協和」を起こすような言行一致しない行動がチーム内で見られたら、「これってストレスかかってまずいんじゃないですか?」といったリスキーな発言が許される。
- 「同調圧力」に無言で従わざるを得ないような風土は、そもそも醸成されない。
心理的安全が万能な処方箋であることは容易に想像できるが、ではそもそも、この心理的安全は、どうやったら創り出すことができるのか。
行き着く答えは、リーダーシップ。まず隗より始めよ。次のような行動をとるリーダーのもとでは、心理的安全が確保されるらしい。
- 部下が、自分の意見をはっきり発言することを奨励する。
- 自分とちがう意見や新しいアイデアに対してオープンな姿勢を保つ。
- メンバー同士も、アイデアや意見を積極的に共有し合うことを奨励する。
- 失敗を許容し、そこからの学びを次に活かすことを奨励する。
- いつもそばにいるよ、気軽に相談に応じるよ、という雰囲気を出す。
- 問題が発生したとき、いざというときは、すぐに対応できる態勢を整えておく。
- 部下のイニシアチブを奨励する。
- 部下を平等に扱う。
…書いていて、つらくなってきた。
これが出来たら、苦労しないよ。
こんな聖人君子みたいなこと、全部できるわけないじゃん。
どういう訓練をしたら、ふつーの人でもこういうリーダーになれるのか。
まずは「自己認識」でしょうか。自分の行動がまだ理想には遠いことを認識し、部下のへぼな行動に対して条件反射的に怒りをバクハツさせたりせず、状況判断に時間をかける。
…「個人の次元」に話は戻るのである。道は遠い。 (おしまい)