①はこちら…

 

タクシーがホテルに到着する。とりあえず、この仕事を終えなくてはならない。
わらわらとタクシーから降りてロビーに集まったガイジンらに、翌朝の集合時間をリマインドする。
「See you tomorrow!」
にっこり笑って手を振って、わざと胸を張り、きびきびとした足取りで次の仕事先に向かう。颯爽としていないと、体が崩れ落ちてしまいそうだった。目的地はホテルから徒歩で15分くらいの距離である。

歩きながら、まずやったのが、AさんにFacebookメッセージを送ること。
おそらくBさんも合格発表を見て、Aさんに報告するだろう。私だけが落ちたことをBさんから知らされたら、Aさんはさぞかし反応に困ることだろう。だから、Bさんより先に私自身からAさんに言わねば。
「大学院、Bさん合格、私は不合格でした…」
それだけ書いて、発信ボタンを押す。忙しいAさんのことだから、即レスはないだろうけれど。

次に、事前に打ち明けていた友人のうち、FBを常用しているCさんとDさんにそれぞれメッセージを送る。
「こんにちは。大学院、不合格でした。残念…」
残念、という一言を付け加える。3人目に同じメッセージを出そうとして、ふと指を止める。

こうやって、次々と友達に報告するのは、慰めてほしいからだ。
自分一人では受け止めきれないから、誰かにとにかく「ダメだった~!!」と言ってしまわないと、やってられないんだ。
それって、なんかちょっと弱くないか?
まがりなりにも心理学を専攻しようとしていた身としては、今の自分の心理を客観的に分析してみるべきではないか。
スマホを鞄にしまい、改めて姿勢を正して歩きながら、心に浮かんでくる気持ちをつらつらとたどってみる。
あれこれあれこれあれこれ、いろんな思いや感情が去来する。
あ~、だめだっ。やっぱりとても自分一人で乗り越えられそうにないっ。

再びスマホを鞄から取り出してしまう。
すると、液晶画面に、Bさんからのメールのプレビュー。
「50番と13番、あるみたいです!」

…えっ?
…あーーっ!!
ま、間違えてた!!!
私の受験番号は、60030じゃなくて、60050だった!!!!!

もう一度大学院のHPを見ると、あるではないか。
60050。
あった…。
ご、合格してた…。

喜び、というより安堵。
安堵、というより虚脱。

時計を見ると、あのタクシーの中での「やっぱり…」から30分。
30分前の、不合格がっくりぐりこ状態から、
今、まさに地獄に仏、Bさんのメールによる天にも舞い上がる状態まで。

しかし、受験番号を間違えるとは。
疲れた…。

そこで、不合格報告をしてしまった3人のことを思い出す。
急いでFBにアクセスすると、幸いAさんとCさんは未読だった。
「自分の受験番号間違えてました! 合格でした!」
という間抜けなメッセージを追加する。
しかしDさんからは、既に優しい慰めのメッセージが入っている。
「ごめんなさい! 受験番号間違えてました! 合格してました」
Dさんからさらに即レス。
「きゃーーー!! 慰めちゃった(笑) おめでとうございます」

ほんっと、ワタシって、人騒がせなヤツ。

          ③に続く・・・