ヘビはどこで進化したのか? | 化石の日々

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オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
化石に関する話題,ときどき地球科学,その他雑多な話題を書いていきます。

どこかの本に書いてありました。
「人類は2種類にわけられる。クモが嫌いなやつと,ヘビが嫌いなやつだ!」

……まあ,真偽はともかくとして,ようは「足の多いのが苦手」というのと,「足がないのが苦手」ということを端的にとらえているかと思います。
ちなみに,私は化石であれば,両方とも受け入れられます。実物は……どうでしょう?(;^_^A
どちらもフィールドでよく会っていた“顔見知り”ですが。。。
今でもワンの散歩コースでよく会います。

今日は,「足がないやつ=ヘビ」に関するお話です。

ヘビ
(イメージ:足成より)

ヘビの祖先はトカゲである,というのは,ほぼ共通理解を得られている話のようです。
ここでは『爬虫類の進化 (Natural History Series)』を参考に記事を進めていきたいと思います。

大雑把にいって(例外はあるにしろ),ヘビとトカゲのちがいというものは,
・ヘビには四肢がない
・ヘビは耳が退化していて,耳の孔がない
・ヘビにはまぶたがない→ヘビは眼を閉じることができない
・ヘビの腹には幅の広い独特のウロコで覆われている(いわゆる蛇腹)
・ヘビの尾は再生しない
などがあげられます。

さて,では,こうした特徴をもつヘビはなぜ,どこで進化したのでしょうか?
実はこれがよくわかっていません。

トカゲ→ヘビへの進化は,「爬虫類時代」である中生代におきたとみられています。
一般によく「最古のヘビ」といわれるのは,「パキラキス(Pachyrhachis)」という,およそ9500万年前のヘビです。
このヘビは,前肢は完全に消失しているのですが,後肢は小さいながらも残っているという特徴があります。
「これぞ,移行段階の種」というわけですね。
注目すべきは,このヘビ化石が産出した地層で,海成層からなんです。
つまり,ヘビは海中で進化した,ということになります。
ヘビには,中生代の3大海棲爬虫類の一つであるモササウルス類から進化した,という見方もあり,「ヘビの水中進化説」なるものが存在します。

その一方で,「ヘビの陸上進化説」もあります。
こちらの見方の一つを支えるコとして,日本の約1億3000万年前の地層から発見された「カガナイアス(Kaganaias)」がいます。
このカガナイアスは,ドリコサウルス類という爬虫類のグループの中で最古のもので,胴体が長い割には,四肢が極端に短いという特徴があります。
このヘビに近い形態をもったカガナイアスは,陸成層,つまり陸でできた地層から発見されています。このカガナイアスがトカゲ→ヘビの移行段階であるならば,ヘビは陸地で進化した,ということになります。

今回,natureで陸上進化説を支持する報告がありました。
natureのハイライトページ(和文)で,その概要を読むことができます(要:メアド登録/無料)。
ここで話題になっているのは,「コニオフィス(Coniophis)」というヘビ類の化石です。
1892年に発表されていた化石ですが,このたび詳細な分析が行われた,とのこと。
コニオフィスは白亜紀末期の化石で,年代上はパキラキスよりも新しいものです。
その意味で,年代的には「最古~」を議論するものではないのですが,注目すべきはその特徴にあります。
端的にいえば,頭がトカゲ,体はヘビなのです。
ちょっとだけ正確にいえば,この化石,まず頭部には,ヘビ的な要素とトカゲ的な要素が混在するようです。
歯は,ヘビのものによく似たかぎ爪状の構造です。下アゴも現生ヘビのように柔軟になっていて小さな脊椎動物程度は補食できたようです。「小さな」というのは,上アゴに柔軟性がみられないからで,結局のところ,主食は大型の軟体性の無脊椎動物だったとみられています。
化石は不完全で,全身がみつかっているわけではないのですが,背骨の構造は,コニオフィスの胴体がヘビのような細長いものであったことを示唆しているようです。
こうした特徴から,コニオフィスは最も原始的な特徴をもったヘビ類と位置づけられています。
この見方が正しければ,ヘビは先に胴体が進化して,その後にあの「がばっ」っと大きく開く可動性の高い頭を進化させたことになります。
コニオフィスのポイントは,おそらく白亜紀前期にほかの主流のヘビたちの系譜とは分岐したものとみられています。

コニオフィスのポイントは,その産地が陸成層であり,そして体にいかなる水棲適応の痕跡も確認できないことです。
この点が“陸進化派”にとって大きなポイントです。
また,コニオフィスの姿から,コニオフィスが地中生活,あるいは半地中生活をしていたと指摘されています。
あの細長い体は,地中用に適応したものなのでしょうか。

爬虫類の進化 (Natural History Series)』には,ヘビ類の祖先が半地中生活であった可能性にふれ,その進化の初期段階についてふれています。
すなわち,トカゲ→ヘビの進化段階で,まず地面の穴や割れ目に生きる半地中生活者として適応・進化し,その後,完全な地上生活者に戻ったのではないか,というお話です。
半地中生活をすることで,胴部が長くなって,四肢がなくなって,視力が低下し,嗅覚などが発達したのではないか。その後,陸上生活に戻ったヘビは,視覚を二次的に発達させたのではないか,とされています。
実際,ヘビの眼には「二次進化」の痕跡が確認できるようです。

今回,長文の記事になってしまいましたが,ヘビの進化。実に興味深いものがあります。
いずれ,どこかでもう少し詳細な記事にしたいですね。


今回の記事の参考書籍はこちら↓

Amazonでエラい値段の中古本が売られていますが……,大手の書店にはまだありそうな気もします。。。





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