多細胞生物の登場はいつのことか? | 化石の日々

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オフィス ジオパレオント代表のサイエンスライター 土屋健の公式ブログです。
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「多細胞生物」と書くと,少し堅苦しいかもしれません。
文字通り「多くの」「細胞」からできている生物で,いわゆる動物も植物も,すべてこの多細胞生物に属します。ですから,標題は「動物の登場はいつのことか?」と言い換えることができます。

よく知られている動物たちの登場は,カンブリア紀でしょう。
これは多数の動物が登場しはじめた時期で,およそ5億4000万年前のことになります。ちなみに,「アノマロカリス」や「ハルキゲニア」などで知られるバージェス頁岩動物群は,およそ5億1000万年前のものです。
たとえば,こんな動物ですね↓


Marrella
マレラ



現在では,カンブリア紀以前にも多細胞生物がいたことがわかっています。
それは「エディアカラ生物群」とよばれるもので,およそ5億8000万年前の動物群です。
こちらはこんなの↓

Dickinsonia
ディッキンソニア
写真はレプリカ

もっともエディアカラ生物群には,その分類の帰属をめぐって議論があるようで,まだ100%多細胞生物であるというコンセンサスがとれているわけではありません。
ちなみに,昨年末に「単細胞生物ではないか」と指摘をうけた中国のドゥシャンツォの“胚化石”は,最も古いもので約6億3000万年前といわれています。この胚化石が昨年末に指摘されたような単細胞生物のものではなく,これまでどおり多細胞生物のものであるというのであれば,これも古い記録です。ほかに,オーストラリアの6億5000万年前の地層から,海綿動物の化石が発見されたという報告もあります。

ところが,先日『South African Journal of Science』に発表された論文によると,今回発見された化石は,この議論をさらに1億年ほど深めるようです。

その論文では,ナミビアの7億6000万年前の地層から発見された海綿動物に似た化石が報告されています。ちなみにこの論文は,現時点で無料で入手可能です。英語ですが,図版もありますので,ぜひご覧ください→South African Journal of Science

その化石は0.3ミリメートル前後のもので,画像を見るとなるほど海綿のように見えます。
Otavia antiqua」と名づけられました。

さて,ここで興味深いのは,当時の地球環境との関連性です。

かつて,地球表層のほとんどすべてが凍りつく,「全球凍結(スノーボール・アース)」の時代があったいわれています。全球凍結は少なくとも3回発生したようです。その年代は約22億年前,約7億年前,約6億5000万年前とされています。

これまでの解釈では,「最後の全球凍結」が終了したのちに多細胞生物が出現していたので,そこに何らかの因果関係があるのではないか,と考えられてきました。
しかし今回,7億6000万年前の海綿動物に似た化石が発見されたことで,こうした考えにも軌道修正が迫られそうです。この化石が真実,多細胞生物のものであるのなら,多細胞生物は全球凍結が終了したのちではなく,もっと早い段階で出現し,少なくとも2回の全球凍結を生き抜いたことになります。

今回の発見は,多細胞生物の「最古の記録」を更新する,というだけではなく,初期の多細胞生物と地球環境の関係にも議論が発展しそうです。
……そうなると,面白いですね。

続報が期待されます。



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