一斉に参加者が走りだす。雫は運動は得意じゃないのであっという間に離されてしまう
このお祭り(マラソン大会)は決まったコースはなく、参加者が独自に調べあげたルートを走っていく。一番最初に丘の上にあるモミの木にタッチした者の勝ちである。優勝したからと言って、賞品はない。でも、優勝した人はクリスマスに願いがかなうと言われている
ゴールまで直線で6キロだが、普通の最短ルートを使っても10キロはある。しかし、雫は走り始めて5分で前のランナーが見えなくなる。さすがに心が折れそうになる。紀子の言っていたことはこれだと感じた。体育の得意な紀子でさえ、他について行くことができなかった。だから、忘れたいのだろう
雫は自分の家に向かう、自分の家の庭を横切ればおよそ1キロを縮めることができる。もちろん近所の家には庭を横切ることを許可してもらっている
3軒の庭を突っ切る、道に出るとちょうど参加者の真ん中くらいになった。ここからまたご近所の庭の入る。雫にとってこのショートカットでトップにならなければ勝つことはできない。この先は他の参加者同様普通の道を走らなければならないから
庭を突っ切り道に出る、そこで雫は天を仰ぐ。まだ前に参加者がいる。見えるだけで3人。でも、まだあきらめるわけにはいかない。走っていくが、前とはどんどん離されていく。さらに、抜かれていく。さすがに心が折れそうになる。建設中のマンションの前にさしかかる。このマンションを大きく回ってゴールの丘に向かう。マンションの入り口に紀子がいる
紀子「こっちこっち」
紀子が手招きしてる
紀子「中通っていいって、シンくんが」
このマンションは紀子のカレ福田新(ふくだあらた)の家の持ちものだった
紀子「私のときもここがあればなー。とにかく頑張ってよ」
雫は頷く。雫がマンションの敷地を出て走ると前に誰もいなかった。モミの木が見える、あと少し・・・
後ろからものすごい勢いで雫を追いかけてくる参加者がいた。確か、テレビにも出てたことがあるマラソンランナーだ。来年、オリンピックがある。それで参加したのだろう。でも、雫も負けじと一生懸命走る。しかし、モミの木まであと100メートルで抜かれてしまう。力が抜けていく・・・
そのとき、あの言葉が頭をよぎる
「彼女はサンタクロースに選ばれた」
わたしは…負けない
再び身体に力が入る
勇気を…勇気を下さい
雫は身体が軽く感じた。まるで羽でも生えたかのように。マラソンランナーの距離をどんどん縮めていく
モミの木まで数メートル
勇気を下さい
海一の笑顔が目の前に浮かんだ
サンタクロースに願いを~聖五夜~終わり