今朝は小雨ながらとても暖かく、ランニング後、しばらく汗が引かずに困った。春を飛び越えて夏になったのではと錯覚しそう。ただこの雨を境にまた寒くなるらしい。雨で桜が散らないことを願うばかりだ。
さて、今日も事実をベースにしたフィクションでM&Aの失敗事例を丸信の後継候補の皆さんに共有したい。(そう、以下はあくまでフィクションです。部分的に真実を散りばめながら、社員教育の為に創作した物語です)
M&Aのプロセスにおいて、最も重要なものの一つが「バリュエーション(企業価値評価)」だ。簡単に言えば「値決め」。
中小企業のM&Aでは、一般的に以下の計算式が用いられることが多い。
企業価値 = 時価純資産 +修正営業利益 × 3年分(営業権)
※時価純資産 B/S上の資産を時価に直し、在庫や売掛金、簿外の債務や資産、引当金等を考慮した実態純資産額
※修正営業利益 P/Lから過大な役員報酬やMA後に退職する親族への報酬、保険などによる節税の費用を適正額に修正した営業利益
これはあくまで一般的な目安であり、業種や企業の成長性、市場環境などによって変動する。(例えば営業利益×5年分など)
ファンドからの案件だと、DCF法等こちらの理解を超える様々な計算手法で価格を吊り上げてくるが、こちらの目線としてあくまで上記計算式をベースとしておいて間違いないだろう。ここから大きく外れるやつは、高かったらスルー。安かったら何か問題が隠されてると思った方が良い。
私が過去に経験したM&Aの案件で「高値づかみをしてしまったかも」と悔いている事例がある。
代表者からの借入金が多額に積み上がっていたケースだ。
条件には上記企業価値に加え、買収後に代表からの借入を返済してくれというもの。ざっくりと企業価値は4000万、代表からの借入が6000万で合計1億円必要だった。
通常、M&Aの際には、この代表者からの借入金は返済対象となる。本件はその額が企業価値を上回っており、しかも当該企業には代表者に返済できるだけのキャッシュがない。
税理士さんにお願いしてDD(デューデリジェンス)も行い、特に重大な問題もないと判明した。前回のようなキーマンの退職やM&A後の顧客離脱もなさそうだ。それならばと本契約に至った。
経営規模や財務状況からしても、トータルでの1億円は少し高いかなーと思いつつも、M&Aすることにやや前のめりになってしまっていた感は否めない。本契約後の引き継ぎなどはスムーズで弊社のM&Aの歴史の中では上手く行った方だろう。
しかし、今になってよく考えると、この企業の前オーナーは会社の実力に比して役員報酬を過大に受け取っていたのだ。当然そんな高額な役員報酬を受け取れば会社の資金繰りが詰まるので、実際には生活に必要な額しか受け取らず、残りを会社への貸付とすることを続けることで6000万も積みあがっていたのだ。
だとすればこの6000万はそもそも実態のない借入と言えなくもない。誰かの入れ知恵で将来会社を売ることを見越して準備したのかも知れないし、純粋に会社のお金が足らなかったのかもしれない。高額役員報酬で会社の利益を収支トントンにし続け、法人税を節税していたのかも。
もちろん、役員報酬を適正な額にしていれば、時価純資産がもっと高額だった可能性はある。しかしそれでも、この役員借入金に関してはディスカウントをお願いしても良かったのでないかと思うのだ。せめて半額くらいは債権放棄してもらえないか交渉はすべきだったのだ。
このMAの際に調達した借入は完済できたが、1億円の回収にはもう数年掛るだろう。本件から次の教訓を得た。
□代表者からの高額な借入に関しては発生した経緯を質問し、ディスカウントの可能性を探る。
バリュエーション(値決め)についてのその他の失敗で言うと本件とは違う会社でのことだが、、従業員さんの退職金制度を軽視したことによる失敗も経験した。
就業規則の退職金制度がどうなっているか?これはDDでは確認するのだが、この点を軽視した為に痛い目に遇ったこともある。就業規則や退職金制度がない場合でも個別の社員に前オーナーが口約束している場合もあった。
どちらかというと後継者不在型というよりも業績不振で救済型案件でのことだ。営業赤字、債務超過でキャッシュもなく、従業員さんも厳しい実情はご存知のはずで、退職金を払えるはずなどないことも承知していらっしゃるような案件で、いざM&Aが成立したら、すぐお辞めになり、堂々と退職金を請求されたことがある。どこにそんなお金が?という話だが、前オーナーと約束していたり、就業規則に払えるはずのない退職金規定があり、それを盾に堂々と請求されたこともある。
結論、断固払わないということも主張出来たかも知れないが、揉めることを避け、本体の資金からお支払いしてきた。
本来我々がMAしなければ、高確率で倒産したと思えるような案件での出来事だ。DDでは指摘されたので、多少のディスカウントをお願いしていたが、軽視した自分の不用心さに忸怩たる思いだ。
DDの際に退職金については口約束まで含め徹底的に確認し、引き当て不足については当然、買収金額から差し引かなくてはならないし、これで買収金額が理論上マイナスになるような案件は途中で辞退すべきだったのだ。さらにリスクを避ける為に一度退職してもらった上で再雇用するなどレガシーの負と切り離すことも考えるべきだったかも知れない。
□退職金制度による引き当て不足を確認する。口約束もないだろうか?不足を買収金額から差し引き、
これで企業価値がマイナスなら撤退も視野に。
これら失敗事例からも多くを学び、値決めの際のチェックポイントを増やし、今ならより多面的に観れるようになった。
これら失敗からの学びを最大化するには将来の経営者候補の皆さんにこれらの教訓から学んでもらうしかない。
(事実に着想を得たフィクションです)
朝のオフィスにて