クレア
クレアはいつも食欲旺盛で何でもよく食べます。でも一つだけダメなのが牛乳。おそらく、乳糖不耐症なのでしょう。つまり乳糖をガラクトースとグルコースに分解する酵素β-ガラクトシダーゼ(ラクターゼ)を体内で産生できないためと考えられます。
アカディという雪印メグミルクの牛乳はあらかじめ乳糖が酵素分解されていますし、低乳糖のペット用牛乳もあるにはあるのですが、うまくいかなかった場合にはあとが大変なので無理して飲ませる必要もないかなと思っています。
お彼岸に先立ってお墓掃除に行く日、妻も一緒に行くと知ってか、絶対に玄関先から離れようとしないクレア。「ここでお母さんを待っておくの!」
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新型コロナウイルスに対するワクチン接種後の抗体測定
地元の某ベンチャー企業が新型コロナウイルス抗体測定サービスを開始しました。これは、新型コロナウイルスに現在罹患しているかどうかを確認するPCR検査や抗原検査とは異なり、ワクチン接種後に抗体がどれくらい保持されているかを確認するための測定サービスです。
商品には1)輸送採血ろ紙セット、2)返信用チャック袋、3)返信用封筒、4)説明書が含まれています。個人で採血しそれをたらしたろ紙を測定サービス機関に送付すれば、結果はWeb上で確認することができます。
新型コロナウイルスに対する自分の体内における抗体保持量を測定・確認するためのステップ
測定は抗原のサンドイッチELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay: 酵素結合免疫吸着測定法)に基づいて行うと記載されています。
1)コロナ抗体を固相に保持し、抗原を加える。抗原は抗体に結合する。
2)酵素標識抗体を添加する。標識抗体は抗原をサンドイッチするように結合する。
3)洗浄し、酵素の基質を加えると発光もしくは発色するので、分光学的に定量する。サンプル中のコロナ抗体が多いほど発光・発色強度は増す。
抗原となるスパイクタンパク質は、その遺伝子を挿入したバキュロウイルスをカイコ体内で発現させて取得しています。
コロナ抗体の抗原となるスパイクタンパク質はカイコ中の発現で作られている。
一般に、シグナルの定量化のために用いられる酵素標識抗体の酵素としては西洋わさび由来のペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、冒頭に記載したβ-ガラクトシダーゼなどが使われます。この酵素反応の基質としては化学発光したり有色の生成物を与えるものが選ばれます。
測定キットを含む商品は3300円で一部の調剤薬局やドラッグストアで購入できるようです。おもしろそうなので近日中にチャレンジしてみようと思っています。
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酵素の進化と応用 〜フランシス・アーノルドさん
地球上の生命体は気が遠くなるような長い長い年月をかけて進化してきました。ヒトはサルから、イヌはオオカミから進化もしくは分化してきたといいます。この進化の過程は変異と淘汰の繰り返しからなっています。変異はさまざまな方向に起こりますが、その時代の地球環境に適応できるように変異した生命体のみが生き残り、他は淘汰されることになります。
新型コロナウイルスはヒトの体内に侵入して自己の遺伝子をコピーして増殖します。このときいつも完璧なコピーが行われるわけではありません。ある確率でミスコピーが発生し、もとのウイルスとは性質の異なる変異ウイルスが出現します。ここでもとのウイルスより弱いウイルスであればまもなく淘汰され消滅しますが、もし感染力が強大で現有のワクチンに対して強い耐性を有するウイルスが変異株として出現すればそれは瞬く間に世界中に再蔓延していきます。つまり、弱いものは淘汰されますが、強いものは生き残るのです。
酵素はウイルスから人に至るまであらゆる生命体の生命の維持に最も重要な役割を果たしています。一部の例外を除いて、酵素は常温、常圧、中性のpH、水溶性の環境で最も効率的に働きます。
ここで、酵素を産業的に利用する目的で、何か有用な物質を経済的かつ高い生産性で得ようとして上記のマイルドな条件を逸脱すると、酵素は直ちに活性を失いその脆弱性が顕著になってしまいます。
そのような背景のもと、地球環境に悪影響を与えない範囲で、かつ省エネが満たされる範囲で、酵素をもう少し厳しい条件でも使えないか。これが私の現役時代後半の仕事上での重要な課題となりました。
私を含め多くの技術者・研究者は、酵素にいろいろな修飾を施したり、何らかの材料と組み合わせて酵素を補強したりして、過酷な条件でも酵素が働くように創意工夫を凝らしました。
私を含め多くの技術者・研究者は、上図中、下のイメージのように、脆弱な酵素に鎧と兜を着せて武装化させ戦いに赴かせました。
フランシス・アーノルドさんは、上図中、上のイメージのように、酵素を生産する微生物を何世代にもわたって過酷な条件で訓練し、進化した強力な酵素を誕生させたのでした。
2018年10月のある日、私はノーベル化学賞受賞者の発表をテレビを通してライブで見ていました。今年も誰か日本人が受賞するといいなあ・・・と期待しながら。
しかし受賞者は日本人ではなく、外国人の女性でした。「フランシス・アーノルド(Frances H. Arnold)」、日本人ではなく残念と思いながらも、あっと驚きました。
フランシス・アーノルドさんとは昔々一度だけ会ったことがありました。1992年4月、オランダのノールドワイケルハウトという小さな町で行われた「非通常メディア中の生体触媒作用」という国際会議の場であったと記憶しています。私がオーディエンスとして着席していると私の隣に座ったのが彼女でした。「今日は天気がいいですね!」とか、「外のチューリップ畑が最高に綺麗ですね!」といった普通の日常会話を交わしただけでした。
このときだったと記憶しているのですが。。。
このような宴席にいたのかも知れません。今になって考えると、一緒に写真を撮ってもらっていればよかったなあ〜と。
彼女の仕事は野心的で興味深いものでした。タイトルは『酵素の指向的進化』。1)問題の酵素に対応する遺伝子に数多くの変異を与える。2)変異遺伝子を大腸菌に挿入する。3)厳しい条件下で培養する。4)酵素活性の高い大腸菌から遺伝子を取り出し再び多くの変異をかける。上記2)以降の過程を繰り返す。条件を段階的に厳しくすることによって、そのような条件下でも効率的に機能する酵素を作り出すことができるというものでした。
1990年代初頭の研究はまだまだ初期段階でしたが、その後彼女のアイディアは多数の酵素系にも適用可能であることが実証され、ついに2018年にノーベル化学賞を受賞するまでに至ったのです。
しかし、上のノーベル財団のWebsiteに彼女が自分自身の半生を記述しているのですが、それはそれは大変だったようです。女性が研究者として生きていく際に襲い掛かる幾多の試練に加えて、彼女の初婚ならびに再婚相手の死、次男の事故死、自身の乳ガンなどなど、多くの過酷な体験を経た過去が記録されています。
莫大なエネルギーを消費し地球環境にも大きな負荷をかける化学産業をバイオプロセスによって置き換えることはできないだろうか。これは1980年台からの多くの技術者・研究者の夢でした。現実は夢にはほど遠いのですが、アーノルドさんのような研究の積み重ねによって、少しずつでも夢が実現するといいなと思います。
もうすぐ2021年のノーベル賞各賞が発表されます。どのような人がどのような内容で受賞するのか楽しみです。
日本人が含まれているといいのですが、私が現役の最後のころから、中国と韓国の追い上げが顕著に目立っていました。今年はまだわかりませんが、近い将来日本は苦戦を強いられそうな感じがします。
去る9月9日開催された2021年イグノーベル賞授与式で「世界5ヵ国の歩道上に吐き捨てられたチューインガム中に存在するバクテリア種の同定に遺伝子解析を用いたこと」に対するプレゼンターとして登場した2018年ノーベル化学賞受賞者のフランシス・アーノルドさん(ピンクの枠内)。受賞テーマに因んで全員がチューインガムを噛んでいます。
アーノルドさんが工場の生産現場で使うヘルメットをかぶっているのは、この年のテーマが『ENGINEERING』であったこと、加えて彼女のもう一つの専門が生化学ではなく化学・機械工学であることからきているのでしょう。
お断り:今回のアーティクルには少し専門的な内容を含みます。私の記憶の曖昧さや理解の誤りがあるかも知れません。その点、どうぞご理解くださるとともに関連するかもしれないご判断にはご注意ください。