猫の物語 四 カギ鼻のジャヴィード<後編>*:..。o○☆ | たぬきのしっぽ ☆彡

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★チンチラたぬきと
メインクーンきつねの生活日記♡

 

シリーンへの
思いを告白したボナールは
しきりにしっぽを振りながら
私に恋の橋渡しをするように頼んだ

私の方が
ボナールより年が上だが
身体が小さいので
ボナールはいつも私に対して
偉そうな口をきく

おい、カギ鼻
この際貸しを返せよ
オレは死ぬほど
シリーンに恋焦がれているんだ
オレを助けると思ってさ

ボナールの言う
私の「借り」というのは
こういうことだ

3年前
私がまだ子猫のころ
ご主人と寺院の中を歩いているときに
花瓶にしっぽを引っかけて床に落としてしまったということだ
同時にドアが
パタンとしまったので
私とご主人様はそのまま寺院を立ち去った

残ったボナールは
花瓶が落ちて壊れたのは
ボナールのせいだと
門番に怒られ
ひどい目にあったということだった

だが、この事件の記憶は
私にはさっぱりなかった。
もちろん
事件が実際に起きたという
証拠もない。


でも
何度も何度も
繰り返しボナールに
「貸しがある」と言われているうちに
事件が本当にあったように
信じ込んでいた。

 


もちろん
ボナールの思いを
シリーンに伝えるという
この役目も
断ろうと思えば
断れたのだ

たぶん
ボナールは私のシリーンへの想いにも
気づいていたから

気づいていながら
わざと自分の恋心を
ぶつけてきたから

「あいにく
私もシリーンが好きなんだよ
ごめんな
私にはキミの恋の橋渡しはできない」
きっぱり伝えるだけで
良かったのだ

だが
その時の私は
あまりにも臆病だった

敵前からただ逃げてしまった

自分の曲がった「カギ鼻」や
アザのある顔と大きすぎる耳
短く毛のうすいしっぽや
やせて小柄な体格に
コンプレックスを感じ
ボナールには
とてもかなわないと
決めつけてしまっていた。

そして
あんなに大好きなシリーンへ
ボナールの想いを伝えると言う
やってはいけないピエロの役割を
やすやすと引き受けてしまっていた。

私に任せろ
大船に乗ったつもりでいてくれ
なあに 大丈夫さ
うまくいくから


わたしが
あんなにも簡単に
コンプレックスにまみれて
恋のさや当てから逃避してしまったのは
結局
若者にありがちな
大きすぎる虚栄心の
裏返しからだったのかもしれない

 

次の連絡船に
アリー様がシリーンを連れて
乗り込んできたとき
遊びを中断して
私はボナールの恋心を
シリーンに伝えた

シリーンは大きな目をみひらいて
私を正面からみつめた
ジャビード
あなたはそれでいいの?
シリーンの瞳はそう言っていた

私は
たじろいた
しまったと思った

あなたが そういうんなら、と
シリーンは言った
ボナールと
これからは
話くらいはしてみるわ
でも・・・・・・。

私はシリーンの次の言葉を待った
だが
この時 何かをいうべきだったのは
私の方だった

シリーン
小さなアナタを見た時からずっと
キミを想っていたのは
私だった、と

だが私の大きすぎるコンプレックスと
プライドが大切な「告白」の
最後のチャンスをも阻んだ

☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚* ☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

 


次の週もその次の週も
アリー様は乗ってこなかった
だから
私はシリーンに会えなかった
私の告白できない思いはつのった

夜中に抜け出して
アリー様の寺院の前を
しっぽをブラブラさせて
うろついてみたりしたが
シリーンに会うことはできなかった

1か月以上してから
アリー様がひとりで連絡船に乗って来た
私はすっかりしょげかえった
それを見て
私の飼い主の船長がアリー様にたずねた

シリーンちゃんはどうしたんです?
まさか 病気じゃ・・・・・・。

アリー様は笑いながら言った
シリーンは
赤ちゃんができたらしくてね
船酔いすると
かわいそうだから

え?赤ちゃんですか
じゃあ うちのカギ鼻は
フライパンですか!!

二人はなおも話を続けていたが
私には何も聞こえなかった

ただ
足元がどんどん旋回して
下に沈んでいくような
墜落感に支配されていた

シリーンの相手は
ボナールにちがいなかった
シリーンが
ボナールの子を産む
涙が心の中で
頬をつたって落ちた

そうだ
私は自分の愛を犠牲にして
愛のメッセンジャーとしての役割を
見事にまっとうした
どうして悲しむ必要が
あるんだ

だが全身から力が抜け
私はその場に
崩れ落ちた

「あ こいつ 
やっぱり 泣いてますよ」と飼い主

「まさか 
猫は 泣かないよ」とアリー様

アリー様は賢くすぐれたお方だ。
でも 猫は 泣きますぜ
ココロの芯から悲しいとき、と飼い主

こいつ本当に
今日は体調がおかしいのかもしれない
陸に置いておこう

飼い主の船長の
思いやりのおかげで
その日
私は真っ青な海を
ぼうっと眺めながら
一日を過ごした
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚* ☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
 

シリーンに再び会ったのは
何年も後だ
子猫と一緒に
アリー様に連れられて
連絡船に乗って来た

ジャビード
お久しぶり 会いたかったわ
お元気?

華やかな笑顔は
相変わらずだった

私はなんとかやってるよ
ボナールは元気かい?
まあ キミの笑顔を見れば
元気だってわかるけどね

シリーンと私は
とりとめない話をつづけた
まだ子猫のシリーンと一緒に
いるようで嬉しくなった

だんだん
陸が近づいてきたとき
シリーンがつぶやくように言った

本当は私
ジャビードのことが好きだったのよ

雷に打たれたような気分だった
え?と驚いた顔を私がしたからだろう

あ、気にしないで
今は私 ボナールと十分幸せだから

船が波止場につき
遊んでいた子猫をつれて
シリーンは笑顔で
しっぽを上にふりあげて
船から降りて行った

じゃあ またね
またお話しようね ジャビード

 


船が新しいお客を乗せるまでの時間
私はシリーンを見送ったままの姿勢で
そこに座っていた
何も考えることができなかった

いつの間にか
靄が海峡にたちこめて
視界はきかなくなっていた

再び船が動き出した
黒い水の上をすべるように進んでいく
いつの間にか
私は船べりに出ていた

おい なにかあるぞ
危ないぞ ぶつかる
誰かの高い悲鳴が響いた
そしてスクリューの止まる音

船が
人々の叫び声とともに
黒い水に飲みこまれていく

次の猫の人生があるのなら
もっと賢い猫に生まれたい
そしてシリーンと結ばれたい
最期にそう考えたのを覚えている

 




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