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The U.S. Patent Practice

米国での特許実務に役立つ情報を発信しています。

Sigray, Inc. v. Carl Zeiss X-Ray Microscopy, Inc. (Fed. Cir. 2025/5/23)  Precedential (先例性あり)

 

Sigray が 、Cal Zeiss X-Ray Microscopy の保有するX線撮像システムの特許 (US Patent No. 7,400,704) に対して Inter Partes Review (IPR, 当事者系レビュー)を申し立て、クレームされた特徴が引例に開示されており新規性がない旨主張したところ、特許庁審判部 (PTAB)はこれを認めませんでしたが、CAFCがPTABの判断を覆した事案となります。

 

争点:以下のクレームの赤字の部分は引例によって潜在的/本質的 (inherently) に開示されているか否か。

1. An x ray imaging system, comprising: 

     a projection x ray stage including: 

          an x ray source generating a diverging x ray beam; and 

          a scintillator for converting the x ray beam, after interacting with a sample, into an optical signal; 

     an optical stage including: 

          a detector; and 

          a magnification lens for imaging the optical signal of the scintillator onto the detector; wherein 

          a magnification of the projection x ray stage is between 1 and 10 times (投影X線ステージの倍率は1-10倍) and a magnification of the optical stage is 5 or greater.

 

一方、引例は、X線ビームを用いて動物の臓器を画像化する方法に関する論文であり、サンプルと検出器との距離を短くすることで、投影倍率の懸念を軽減することに言及していました。また、この引例は、X線ビームを平行化する手法、コリメーションについても言及していました。

 

PTABは、引例の開示するX線ビームが「1-10倍」の投影倍率をもたらすほど十分に発散することが証明されていないとし、上記赤字部分の限定が開示されていないと判断していました。

 

これに対し CAFC は、PTAB の判断にはクレームを不当に限定解釈した誤りがあると結論付けました。すなわち、クレーム文言には 1 倍をわずかに上回る 1.001 倍のような倍率も含まれるにもかかわらず、PTAB はそのような微小な拡大を無視し、クレーム範囲を不当に狭く解釈したと指摘しています。

 

(Generated by ChatGPT)

 

SourceがX線源、Sampleが撮像対象、Detectorがステージに相当し、Mが倍率、LsがX線源とSampleとの間の距離、LdがSampleとDetectorとの間の距離を表します。

 

SampleとDetectorとの間の距離がゼロにできれば倍率M は 1 になりますが、Sampleは立体であり、そのような構成は不可能です。また、いかにコリメーションなどの技術を用いても、X線ビームは僅かに発散し、結果として、撮影された像は僅かながらに拡大されることが証言から明らかになっていました。

 

従って、撮像対象がごく僅かに拡大されることは引例によって潜在的に開示されており、倍率「1-10倍」という文言を含むクレームの新規性が否定される結果となりました。

限定は、「参照文献が、明示されていない限定を必然的に含む先行技術を開示している場合」に、潜在的に開示されている (inherently disclosed) とみなされる。Transclean Corp. v. Bridgewood Servs., Inc. (Fed. Cir. 2002)

 

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Inherencyについては、以前のエントリでもご紹介しました。本件は、特許庁が狭い解釈を行ったケースでしたが、審査の実務で見かけるのは、日本の実務に慣れた方が、102条要件違反に対し、引例に明記はされていない(がよくみると本質的に開示されている)特徴で補正を試みるパターンです。(RCEまっしぐら)

 

米国の新規性判断においては、明示的に開示されている文字や図面だけでなく、本質的/潜在的に開示されているとみなされる要素についても考慮する必要がある点、ご留意ください。