9/12 (金) に知財・情報フェアでプレゼンさせていただきました「生成AIで実現する、合理的な米国特許実務のコスト削減策」のアンケートで、いくつかコメント・ご質問をいただきましたので、この場で私なりの(仮)回答をさせていただきたいと思います。
・AIが提示した相違点に基づく補正案では実務上のずれを感じることが多い
引例の数が多い場合や、ある特定の内容に関する文献である場合で、うまく相違点を特定できないケースがあることは、当方でも確認しております。一方で、使える結果を出力するケースも多いように私は感じますので、使えない!と切り捨てるには惜しいと思います。
今回のプレゼンテーションでは、米国代理人の代わりに生成AIにコメントを作成させました。セミナー発表の際は、時間の関係で、最初のプロンプトに対する出力をお見せするだけとなってしまいましたが、実際に運用する際には、担当者が、AIの出力をベースに方針を検討した上で、応答指示書を作成することになると思います。
AIの出力であれ、米国代理人によるコメントであれ、受け取った時点での方針に沿わない可能性があることから、担当者による何らかの検証・修正作業は必要と考えます。この工程にかかる負荷をいかに減らすかについては、今後改めてご提案させていただきたいと思います。
・米国OAのコスト低減に関しては長年課題感を持っている
ほぼ全ての日本の出願人・代理人が共通して同様の認識をお持ちだと思います。セミナーでも説明させていただきましたが、主な要因は、(1)米国弁護士の高いアワリーレートと、(2)オフィスアクション回数が多いことの2つとなります。
前者については、弁護士を変える以外に対処法がありませんが、後者については、ご提案させていただいたように、生成AIを使用して米国代理人の作業量を減らすことにより、ある程度対処が可能です。
ただ、(2)に関し、コストを最小化するために最も有効なことは、出願人(日本代理人)と米国代理人とが一致した考えをもって応答することだと私は考えます。この条件が整うことにより、説得力のある補正書・意見書ができ上がり、拒絶克服の可能性が最も高まります。セミナーでご紹介した運用プロセスで、米国代理人からのフィードバックのプロセスを残しているのも、これが理由となります。
・資料のプロンプトは日本語だったが、普段は英語で記述しているのか
ご指摘の通りです。今回のセミナーでは、日本の実務家の皆様を対象としたものであるため、日本語のプロンプトを作成しました。
言語やロケーションなどを指定せず、漠然と日本語を使用してプロンプトを記述すると、AIは、当然ながら日本語で情報を探しに行きますので、英語で指示した場合とは結果が異なる可能があります。セミナーの事例では比較・検証していませんが、ある別のプロジェクトで判例研究していたとき、ある新しいCAFCの事件で、英文によるプロンプトでは情報が出力されたにも関わらず、日本語ではそんな事件は存在しないと回答されたことがあります。
AIの翻訳能力は素晴らしいと思いますが、内容によっては言語を使い分けるか、相応の指示(英語の文献をサーチせよ、など)をする必要があると思います。
・クレーム案や応答案が正しいかの確認作業をAIにさせられないか(あるいは、信頼性何%など表示させられないか)
これは今後の検討課題ですね。チャットのインターフェース上で行うのは難しいかもしれませんが、API を使えば技術的には可能だと思いますので、いつか試してみたいと思います(生成AI(1)に出させた補正案に対し、引例を回避できているか生成AI(1)-(3)に回答させ、回避成功率を表示する、等)
・ソリューションの特許に関し、具体的にどうしたら101条を解消できるのか
101条については過去にセミナーもさせていただいておりますが、ソフトウェア、とりわけソリューション系に特化した具体的な事例まではご紹介できていなかったと思います。より分野に特化したセミナーか、短い動画か何かで、改めて解説させていただきたいと思います。
・RCEを繰り返すか、アピールに移行するかの見極めについて知りたい
そもそも論ですが、アピールとRCE、同等の選択肢として選べる状況にありますでしょうか。
・・・というのも、コストの関係で、多くの日本の出願人が、そうではないように感じているためです。(もちろんご質問いただいた方のように、すべてでないことは承知しています)
これも今後のセミナートピックとさせていただきたいと思いますが、一般的なご回答としては、審査官の判断について法的に明白な誤りがある場合にのみ、アピールを検討すべきです。103条に関連する構成要素の認定についても、やはり明白な誤りといえるかどうかがポイントとなります。また、別の観点から、クレームの補正の余地があるのであれば、多少、審査官の判断が不合理と感じることがあっても、アピールではなくRCEに進んだ方が、許可への道は近いと思います(審査段階であれば審査官の誤解も解けるし補正もできる)。