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The U.S. Patent Practice

米国での特許実務に役立つ情報を発信しています。

昨日、特許法第101条 (特許適格性) 改正法案についての公聴会がライブストリーミング中継されていたので、2時間超、最後まで視聴してみました。(なお、現在も録画が視聴可能です)

 

計8名の証人がそれぞれの立場から法案への賛成意見(6)、反対意見(2)を述べていましたが、いくつか印象に残った点を記録しておきたいと思います。

 

・元USPTO長官の2名 (Andrei Iancu氏, David Kappos氏) による賛成意見

この二人が同じパネルで証言しているのが興味深いところです。二人のメッセージとしては、発明の特許性を判断し、特許の質を担保するための条文は102条(新規性)、103条 (非自明性)、112条 (記載要件、明確性要件、実施可能要件)  であり、その前段階となる適格性を定める101条は、非技術的な主題を除外しつつも、広い間口で一貫性がなければならない、というものです。これは、現在のUSPTO長官のSquires氏の意見とも共通する考え方です。

・全米小売業協会の代弁者 Mike Lemon氏による反対意見

Alice判決は、ショッピングカートのような、日常的な業務に関する抽象的な特許で企業を訴えるパテントトロールからの訴訟を迅速に棄却できる有益なものであったという主張です。小売業界としては、改正法によって、このような特許が復活することを危惧しているようです。

 

元長官らは、特許の質を担保するのは102, 103, 112条であるべきと主張していますが、Lemon氏は、Alice以前のパテントトロールの訴訟ビジネスに鑑み、102, 103, 112条による質の担保について懐疑的なように見受けられました。

 

改正法案の発起人であるThom Tillis議長・上院議員は、2025年度版のPERAの条文を参照するように促していましたが、この条文は、特許適格性のない主題を以下の通り列挙しています。

(A) A mathematical formula . . . 

(B) A process that is substantially economic, financial, business, social, cultural, or artistic, even though at least 1 step in the process refers to a machine or manufacture. 

(C) A process that—

     (i) is a mental process performed solely in the human mind . . . 

これらは、長年の判例の積み重ねにより、特許適格性がないと判断されてきた概念に相当します。したがって、改正法案は、これまで特許適格性がないと判断されてきたものを完全に復活させるものではなく、Lemon氏の主張は少し弱いかなと個人的には感じました。身近な技術の安易な組み合わせで特許が成立して訴えられると困るというのは理解できますが、それは101条というよりは103条の問題かなと思います。

 

・製薬、医療業界関係者3名による賛成意見

現行法では、遺伝子バイオマーカーを用いた検査方法は、自然法則・天然物であり、特許適格性のない主題と判断され得ます。これにより、所定の検査方法についての発見、開発、商業化の道が閉ざされ、イノベーションが阻害されているというのが基本的な主張です。

 

また、Novartis社の知財グローバル責任者である Corey Salsberg氏は、中国、欧州、日本では、米国で特許適格性がないとされる主題についても特許を認めているが、米国の批判者が予測するような悪影響は一切生じていないと主張しています。

 

・大手法律事務所 Pillsbury, Winthrop Shaw Pittman LLP のパートナー Richard Blaylock氏による反対意見

一方、アトーニーの立場から、反対意見が出されています。改正法案は、「人体中に存在する、改変されていないヒト遺伝子」を特許適格性がないものとして規定していますが、氏はこれがみせかけであり、無意味なものであると主張しています。

(D) An unmodified human gene, as that gene exists in the human body. 

(E) An unmodified natural material, as that material exists in nature.

氏の主張は、これが後続の規定により骨抜きにされているというものです。

(E), a natural material shall not be considered to be unmodified if that natural material is— 

(i) Isolated, purified, enriched, or otherwise altered by human activity; or 

(ii) Otherwise employed in a useful invention or discovery.

つまり、人によって単離、精製、濃縮、その他改変された場合や、有用な発明に利用されただけで、unmodified (未改変) とみなされなくなり、実用的な用途をもつあらゆる天然物が特許適格性を有することになるためです。

 

なるほどな、と思う一方、他国で特許可能な主題なのであれば、米国で締め出す強い理由もないのではと個人的には思いますが・・・。私はこの業界の特許に触れる機会がないため、日ごろからこの分野の実務に携わる皆様のご意見をお伺いしたいところです。

 

今回の公聴会の内容を踏まえ、法案は修正協議に付される見込みです。引き続き法案の進捗についてもモニタしていきたいと思います。