別のエントリーで、国内移行出願におけるクレーム番号の表記 ([Claim 1] v. 1. ) の問題を取り上げました。これに関連して、米国における国内移行手続きが完了した際に設定される 371(c) Date (国内段階への移行日) についてまとめておきたいと思います。
まず、PCT出願の国内移行に関連して、3つの異なる基準日が存在します。
- 国際出願日(International FIling Date): いわずと知れたPCT出願の出願日
- 国内段階への移行日 (Date of entry into the national stage): 出願人による国内移行手続きが完了した日として決定される基準日。この手続き的要件を規定した特許法371条(c)にちなんで371(c) Dateと呼ばれる
- 国内段階の開始日 (Date of commencement of the national stage): 出願人の手続きとは独立して、優先日から30か月が経過した時点など、所定の期間が経過した後に自動的に設定される基準日
この371(c) Dateが設定されるための要件ですが、現行法 (AIA) のもとでは、以下の2つを満たす必要があります。
- 国内手数料 (Basic national stage fee) の支払い (35 U.S.C. 371(c)(1)) (現在はディスカウントなしで $350)
- 国際出願の写し 及び 翻訳文の提出 (35 U.S.C. 371(c)(2))
この371(c) Dateは、国内移行手続き後に庁から発行される "NOTICE OF ACCEPTANCE OF APPLICATION"上で初めて公式に認定されることになります。なお、手続き完了からこの通知が発行されるまで、数か月のタイムラグが生じることがあります。
上記要件のうち、国内手数料の支払いと、国際出願の写しの提出については、優先日から30か月以内に行わなければ出願が放棄されたとみなされます。 (37 CFR 1.495(b) & 1.495(h), MPEP 1893.02)
一方、上記以外の不備(翻訳文未提出、サーチフィーや審査手数料などの未納など)があった場合には通知が発行され、所定期間内 (通常2か月、延長可) に応答の機会が与えられます。 (37 CFR 1.495(c)(1))
この場合、通知に応答して不備が解消された日が、最終的な 371(c) Date として設定されます。
371(c) Dateが確定すると、それを起点として庁内で本格的な審査プロセス(方式審査→技術分野の分類→審査官による実体審査)が開始されます。そのため、この日が後ろにずれると、その分オフィスアクションの発行や特許査定が遅れる可能性があります。
この遅延は一見デメリットに見えますが、必ずしもそうとは言えない側面も存在します。
特許庁は、最初のオフィスアクションを14か月以内に発行することを目標とする、いわゆる14か月ルールを運用しています(他にも目標設定はありますがここでは割愛)。この14か月ルールの起算点は、現行法の下では、371(c) Dateではなく、優先日から30か月経過後の日に相当する「国内段階の開始日 」となっています。(MPEP 2731, 37 C.F.R. 1.703)
最初のオフィスアクションの発行がこの14か月ルールの期限より遅れた場合、その遅延期間は、特許存続期間の調整 (Patent Term Adjustment, PTA)として加算されます。上述の通り、その起算点は、通常、優先日から30か月経過後の日となります。したがって、国内移行手続きの不備解消により371(c) Dateが後ろにずれると、その分、USPTOの職員が14か月ルールの中で審査に使える日数が短くなります。これにより、結果としてPTAが発生する可能性が高まるかもしれません(※これは規則からの推測であり、USPTOが公式に認めている見解ではありません)。
(なお、USPTOによると、14か月ルールの順守率は、2025/6/25時点で20%弱。昨今の経費削減でさらなる悪化の可能性も?)
(USPTOのウェブサイトより引用)
・・・そのような見方も可能ではあるものの、余計なオフィスアクション対応の手間が生じますので、国内移行時の手続きは一度で完了させるべきなのは言うまでもありません。
※個人的には、クレーム番号の件も考慮し、国内移行出願ではなくバイパス出願にすればよいと考えていますが、これについてはまた改めて記事にしたいと思います。