みなし選択 (Constructive Election) とシフトの罠 | The U.S. Patent Practice

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米国の特許出願手続きにおけるユニークな制度の一つに限定要求 (Restriction Requirements, 35 USC 121, MPEP 800)があります。

 

一出願一発明の原則に基づき、独立かつ区別可能な二以上の発明がクレームされている場合、審査対象として何れかの発明を出願人に選択 (Election) させる制度です。(日本の単一性と同じ趣旨ですが要件がより厳しい)

 

出願人は、この要求に対して反論するかどうかに関係なく、一の発明を選択しなければなりません。そして、一の発明を選択した後は、選択しなかった発明に対応するクレームを新たに追加したり、選択した発明に対応するクレームを選択しなかった発明のクレームで置き換えたりすることはできません。(シフトの禁止  MPEP 819 "Office Generally Does Not Permit Shift"

 

ここで、発明の選択は、限定要求を経ることなく、暗黙的になされることがあります。

 

審査基準によると、当初のクレームであって、その実質的審査が行われたクレームは、出願人が選択した発明として特定されることになります。(MPEP 818.02(a) "Election By Originally Presented Claims")

 

したがって、オフィスアクションに対する応答として、出願当初のクレームを全削除して新たなクレームを追加した場合、その内容によっては「シフト」に相当し、審査対象とならない可能性があります。 

 

このようなクレームの置き換えを行った場合、審査対象となるかどうかは、「変更によって追加の負担が生じない」かどうかが基準となります。これは、限定要求の要件と同様、審査官の裁量による主観的な判断が入るため、争うことは一般的に難しいといえます。

 

オフィスアクションを受けた後にクレーム一式を置き換えたい場合には、可能な限り既存のクレームの表現を使用した上で、以下のような主張をしておくことが好ましいです。

 

・争点の単純化:選択された発明に係る主題を明確化・単純化するための補正であること

・追加の審査負担なし:新たに追加された主題が、選択された発明に係る主題と同じ分類に属することを指摘し、追加の審査負担は実質的に生じないこと

・クレームの限定:新たに追加された特徴は、既に選択・審査された発明をさらに具体化するものであり、全く別の発明への変更ではないこと

不幸にも、審査官がこの主張を認めず、許可されないシフトだと判断した場合、分割出願をすることになります。