American Axle Manufacturing, Inc. v. Neapco Holdings, LLC (Fed. Cir. 2020/7/31 (modified), 2019/10/3 (issued)) (Precedential)
先日の知財実務オンラインでご紹介した最近の判例のうち、US Synthetic Corp. v. ITC (Fed. Cir. 2025) との関連で言及した本件につきまして、ブログで補足させていただきます。
本件は、自動車用のプロペラシャフトの製造方法に関する発明で、その特徴は、振動を減衰させるためのライナー (以下の図の204) という部品にありました。
本件が議論を巻き起こした理由として、本発明はシャフトの製造方法であり、従来から特許適格性を有する主題として取り扱われてきたことにあります。実際、この発明は、自然法則・自然現象(天然物)・抽象的アイデアのいずれにも該当しないようにみえます。
大法廷での再審理請求や最高裁への上訴申立ても行われましたが、いずれも却下され、CAFCの多数意見が最終的に確定し、現在も効力を有しています。
争点となったクレームは以下の通りです。
22. A method for manufacturing a shaft assembly of a driveline system,
the driveline system further including a first driveline component and a second driveline component,
the shaft assembly being adapted to transmit torque between the first driveline component and the second driveline component,
the method comprising:
providing a hollow shaft member;
tuning a mass and a stiffness of at least one liner, and
inserting the at least one liner into the shaft member;
wherein the at least one liner is a tuned resistive absorber for attenuating shell mode vibrations and
wherein the at least one liner is a tuned reactive absorber for attenuating bending mode vibrations.
(comprising以下の和訳:
中空シャフト部材を用意する工程と、
少なくとも1つのライナーの質量および剛性を調整する工程と、
少なくとも1つのライナーをシャフト部材に挿入する工程と、
少なくとも1つのライナーは、シェルモード振動を減衰させるための調整された抵抗性吸収体であり、
少なくとも1つのライナーは、曲げモード振動を減衰させるための調整された反応性吸収体である)
この調整 (tuning) 工程は、以下のように解釈されています。
controlling the mass and stiffness of at least one liner to configure the liner to match the relevant frequency or frequencies
(少なくとも1つのライナーの質量および剛性を制御して、ライナーを関連する周波数に一致するように構成する)
また、この調整工程は、周波数と質量および剛性の関係性を示すフックの法則 (Hooke's law) 、すなわち自然法則の使用が必須とされています。
CAFC (多数意見) は、「クレームされていない特徴は Mayo/Alice分析の第一ステップ、第二ステップとは無関係である」とし、明細書ではなくクレームの文言に着目した上で、上記の限定は、「単に所望の結果 (desired result) を記載しているに過ぎ」ず、自然法則を実用化する工程が何ら記載されていないと結論付けました。
真の発明的作業は、2つの異なる振動モードを同時に減衰させるライナーの設計方法を見つけ出すことにあるが、そのような発明的作業はクレーム22には記載されていない。クレーム22の残りのステップは・・・従来の解決前および解決後の作業に過ぎない。
(この点、反対意見では、クレーム、明細書いずれにおいてもフックの法則について明記されておらず、クレームの文言上、自然法則は記載されていない点が指摘されています)
なお、CAFC (多数意見)は、クレームが、上記の調整工程において実行される有限要素解析などを含んでいれば、異なる結果となるだろうと述べています。
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発明の本質的特徴に照らすと、当該事案に 101 条を適用すべきとは考えにくいものの、明細書に記載された実施形態と裏腹に、特許適格性を有しない概念を含むような広範なクレームが記載されている場合には、蓄積された判例との整合性を踏まえつつどのように扱うべきか、判断が分かれる状況にあるように思われます。
本件の意見は2019-2020年のものですが、それ以降、改正法案が審議され続けているものの、いまだ成立には至っていないことから、2025年の改正法案についても、成立するかどうかは依然として不透明といえます。
とはいえ、101条の問題とは関係なく、クレームドラフティングの一般的なセオリーに従い、クレームには、期待される結果 (desired result) を記載するのではなく、その結果をもたらす構成要素を記述するよう心掛けるべきです。