以前、「wherein句で限定を記述しても無視されると聞いたが本当か?」と問い合わせを受けたことがあります。
結論としては、そんなことはありません。もしそうだとしたら、多くの特許の有効性が認められなくなってしまいます。
上記の質問は、過去の判例で、クレームされたプロセスによって得られる、意図した結果 (intended result) がwherein句に記載されていたケースで、その部分は特許性の観点から有効ではない (引例との対比において無視される) とされたものに由来するものと考えられます。
クレームにおいて、意図する目的や結果を記載したとき、有効な限定とみなされるかどうかは、ケースバイケースの判断となります。従って、クレームには、結果を生み出す元となる部品やプロセスそのものを列挙することが基本となります。
以下に、関連する審査便覧 (MPEP) の箇所の筆者(超)訳版を記します。
I. "ADAPTED TO," "ADAPTED FOR," "WHEREIN," and "WHEREBY"
クレームの範囲は、示唆的又は任意であり工程が実施されることを必要としないクレー ムの文言、又は、特定の構造にクレームを限定しない文言によって制限されない。
しかしながら、次のクレームの文言の例は、包括的ではないが、クレーム限定の効果に疑義を生ずる可能性がある:
(A) "adapted to" or "adapted for"
(B) "wherein"
(C) "whereby"
これらの文節の各々がクレームにおける限定となるか否かの判断は、事例の具体的事実に依存する。例えば、Griffin v. Bertina (Fed. Cir. 2002) 参照。 ("wherein"節が「操作工程に意味及び目的」を与え、方法クレー ムを限定したと判断された)。
In re Giannelli (Fed. Cir. 2014)の事件において、裁判所は、「詳細な説明が、出願に使用されている"adapted to"が狭い意味を有することを明瞭にしている、つまり、クレームされている機械がローイングマシン(筆者注:運動器具)として使用されるように設計又は構成されており、それによってハンドルに引張力が働いていることを明瞭にしている」場 合には、その"adapted to"節が機械クレームを限定すると認定した。
Hoffer v. Microsoft Corp. (Fed. Cir. 2005)の事件において,裁判所は、「"whereby"節が、特許性に重要な条件を記述している場合、当該発明の実体を変えるために無視することができない」と認定した。一方、同裁判所は、Minton v. Nat’l Ass’n of Securities Dealers, Inc. (Fed. Cir. 2003)を引用し、「方法クレームにおける "whereby" 節は、明確に詳述された方法のステップの意図された結果を単に表現しているに過ぎない場合、重要性は与えられない」と注釈した。
したがって、wherein句を使用して、構成要素をさらに限定したり、ステップの詳細を記述したりすることに何ら問題はありません。逆に、無理にwhereinの使用を制限すると、すべての限定を名詞句で連結する必要が生じ、構成要素とその限定が多数続く場合には、クレームが読みにくくなったり、修飾関係があいまいになったりする可能性があります。
wherein=NG!と決めつけるのではなく、クレームの内容に応じて柔軟に対応するとよいと思います。