Ex.49 - 線維症の治療方法 | The U.S. Patent Practice

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2024年7月に特許庁から出された、特許適格性判断のサンプルの3つ目のご紹介です。クレーム1が適格性なし、クレーム2が適格性ありの例となります。

 

まずは、クレーム1について。

[Claim 1] A post-surgical fibrosis (線維症) treatment method comprising:
(a) collecting and genotyping a sample from a glaucoma (緑内障) patient to a provide a genotype (遺伝子型) dataset;
(b)(i) identifying the glaucoma patient as at high risk of post-implantation inflammation (PI、移植後炎症) based on a weighted polygenic (多遺伝子) risk score (PRS) (ii) that is generated from informative single-nucleotide polymorphisms (SNPs、一塩基多型) in the genotype dataset by an ezAI model that uses multiplication to weight corresponding alleles (対立遺伝子) in the dataset by their effect sizes and addition to sum the weighted values to provide the score; and
(c) administering an appropriate treatment to the glaucoma patient at high risk of PI after microstent implant surgery.  

(訳語は筆者追加)

https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/2024-AI-SMEUpdateExamples47-49.pdf

 

Step 1: クレームされた発明、プロセス、機械、製造物、組成物、又はその新規かつ有用な改良か?

患者のリスクを特定するプロセスであり、Step 2Aに進む。

 

Step 2A, Prong One: クレームが自然法則、自然現象、又は抽象的概念(いゆわるjudicial exceptions)を対象とするか?

(なお、抽象的概念とは、思考プロセスや数学的概念、人の行動を組織化する方法を指し、さらに人の行動を組織化する方法とは、経済原理やビジネス上の行為、人間の社会的活動などを含む)

 
(b)(i)  移植後炎症のリスクの高い緑内障患者の特定は、人が思考によって実行され得るため抽象的概念に該当する。
また、患者と疾患との間に自然に生ずる自然法則を利用したものである。
 
(b)(ii) 乗算、加算を含む数学的概念。
さらに、人が思考プロセスによって実行(計算)可能。

 

クレーム全体として抽象的概念(judicial exceptions)を対象としており、さらなる分析Prong Twoへ進む。

 

 

Step 2A, Prong Two: judicial exceptions(ここでは抽象的概念)を上回る追加的な構成要素があるか、またこれらによってそのjudicial exceptions(抽象的概念)が実用的な応用(application)へと一体化されているか?
 
追加的な構成要素は、サンプルから遺伝子型データを取得するステップ(a)と、特定したハイリスクの患者に処置を施すステップ(c)。
 
(a) 単なるデータ収集に関する、重要ではない追加の解決的動作 (extra-solution acvitity)
(c) 患者が具体的にどのように処置されるのか、それはどのような処置なのかの情報がなく、施される処置についての限定がない。従って、クレームに有意な限定を加えていない。
 
また、この発明では、ezAIモデルの使用により、リスクスコアのモデルの改良がもたらされるが、これはコンピュータの機能改善にはつながっておらず、患者のリスクを判定するという抽象的概念そのものについての改善の域を出ていない。従って、抽象的概念が実用的な応用へと一体化されていない。
 
Step 2B, クレームの追加的な構成要素により、judicial exceptionsを大きく上回る程度まで、発明的概念が追加されているか
 
ステップ2Bでは、追加の解決的動作が既知かどうかが考慮される。(a)は、実験室で習慣的に実施される技術であり、(c)は、上述したとおり、具体的処置について記載がなく、抽象的概念の単なる適用に過ぎない。よって適格性なし。
 

次に、クレーム2について。

 

[Claim 2] The method of claim 1, wherein the appropriate treatment is Compound X eye drops.

 
すなわち、クレーム1のステップで特定されたリスクの高い患者に対して、化合物Xの点眼薬を投与するという限定が追加された。
 
この限定によって、抽象的概念が、リスクの高い患者群に属する患者を特定し、その患者に対して特定の治療(化合物Xの点眼薬)を施すために使用される点が明らかとなった。したがって、クレーム全体として、抽象的概念が、特定の実務上の応用に一体化されている (Step 2A, Prong Two)。
 
日本で医療行為を権利化することはできませんので、医療用機器(コンピュータ)やその機器が実行する方法に着目してクレームを記述されていると思います。そのような発明が米国でも出願されたとき、本件のような特許適格性の問題に直面することになります。米国での出願が見込まれる場合、医療用機器を使った医療行為にかかるステップを、適用領域や処置の手順とともに(できればフローチャート付きで)具体的に明細書に含めておくと、特許適格性の拒絶理由を受けた場合にとれる対策が増えます。