あなたはあなたとして生まれた。
一度きりのあなたは、やがてこの地上を去る。
そしてあなたとしてのあなたは二度と現れることはない。
そのように一度きりの唯一無二の体(たい)としての現象/phainómenon の現実を目の当たりにして、あなたはその儚さに戦慄を覚える。
その寄る辺の無さ、見放された感じ、・・・その内なる孤独を外の世界に投影して、あなたは根源的な反感を他者に向ける。
他者に向けられたあなたの反感は、その反感を向けられた他者からはね返ってくる。
これがエゴイズムのいわば神話的な由来である。
「創世記」に描かれたカインの姿を、このエゴイズムの神話に重ねることができる。
このエゴイズムからこの地球上で展開されるあらゆるセンチメンタルなどうしようもない悲喜劇が生まれるのだ。
実のところ誰もが、それらの悲喜劇を「いつか見た景色だ」とぼーっとして見てはいるのである。