ケンブリッジの風 28 『偉人の軌跡をたどる』 | 019|まる・いち・きゅう

019|まる・いち・きゅう

丸い地球をまわりながら考えていることの記録

ケンブリッジの南、徒歩40分ほどのところにグランチェスターという小さな村がある。教会とレストランやパブが数軒の本当に小さな村だが、そこにオーチャードというティーガーデンがある。ここのスコーンは絶品。これが食べたくて私はこれまで何度「自分へのご褒美」と称して足を運んだことか。



そのオーチャードの歴史は古くて深い。オープンは1897年。ケンブリッジの学生の間で噂が広がり、瞬く間に人気のティーガーデンとなった。100年以上たった今も、ケンブリッジの人々に憩いの場として親しまれ続けている。過去にはチャールズ殿下や、詩人ブルック、経済学者ケインズなど多くの文化人がここを訪れたというから驚きだ。



グランチェスターまでのフットパス(散歩道)もまた由緒溢れる。ケンブリッジとグランチェスターの間にはGrantchester Meadowsと呼ばれる緑豊かな牧草地があるが、ここはかつてバイロンやワーズワースが詩作に耽り、チューリングがコンピューターの原理を思いついた場所でもあると言われている。



さて、キングスカレッジからほんの2分のところにあるのはパブ、イーグル。1667年に「イーグル・アンド・チャイルド」として始まったが、ここもまた偉人と関わる歴史をもつ。そのためには核物理学のメッカともいわれる物理学研究所、キャヴェンディッシュ研究所について少し説明する必要がある。



キャヴェンディッシュは1871年に物理学者ヘンリー・キャヴェンディッシュを記念して作られた研究所で、初代所長はマクスウェル。これまでに28人のノーベル賞受賞者を輩出している。長年にわたる物理学への著しい貢献に加えて、キャヴェンディッシュは分子生物学、特に1953年のDNAの二重らせん構造の発見で知られている。この構造をつきつめたのは当時たんぱく質の構造を研究していたフランシス・クリックとジェームス・ワトソンだ。彼らは後にノーベル生理学・医学賞を受賞した。



このキャヴェンディッシュ研究所は今でこそウェストケンブリッジ(街の西の外れ)に移ったが、長いこと街の中心部に位置していた。そして、研究所のすぐ裏にあったのが前述のイーグルパブなのだ。ワトソンやクリックはしばしばこのパブに足を運んでいたとされ、DNAの構造を発表したのもこのパブだったと言われている。今でもイーグルを訪れれば誰でもその席に座ることができる。なんとも感慨深い。



 
イーグルパブでケンブリッジに遊びに来てくれた高校時代の友人と 


(ねっとわーくSAITAMA 7月号より)