ケンブリッジの風 22 『Sheepdogging』 | 019|まる・いち・きゅう

019|まる・いち・きゅう

丸い地球をまわりながら考えていることの記録

イソップ童話の代表作に「羊飼いと狼」がある。私の家にも絵本があり、小さい頃両親に繰り返し読み聞かせしてもらった。その中で、少年は犬を連れていたように覚えているがSheepdogとはまさにその犬のことを指す。日本語では牧羊犬というそうだが、要は羊の群れを集めたり連れて行ったりするよう訓練された犬のことだ。



12月から1月にかけての期間、私は毎年Sheepdoggingをする。「牧羊犬をする」とそのまま訳してしまうと何のことだか想像しづらいと思うが、これは入試の手伝いのことである。ケンブリッジでは面接を重視しているため書類選考で落ちることは少なく、学部を受験する生徒のほとんどが面接の対象となる。したがって、例年この時期各カレッジは面接を大過なく執り行うためてんてこまいだ。なにせ学部は10を超える上、イギリスのみならず世界各国から生徒がやってくるのだ。今年はプエルトリコやモーリシャスなどからの受験生もいた。遠方からの受験者には寮の部屋を提供するためその調整も一苦労だ。

カレッジの地図とその日のインタビューの予定が入ったファイル



日本では面接というと志望動機や将来の夢、これまでの経験について聞かれるのが一般的だと思うがケンブリッジの面接ではそのような一般的な質問は少なく、ほとんどが受験分野に特化したものとなる。面接官も大抵はその分野の教授だ。経済や数学などの科目では事前に別室で問題を解き、面接ではどのような手法でその問題を解き、何がわからなかったかなどを面接官に説明することが求められる。歴史や英文学、政治などの文系の面接では与えられた文章に関しての意見を求められ、教授と議論をすることが多い。面接官は模擬授業のような面接を行いながら生徒の知識、理解速度、好奇心、将来性などを判断し、その上で合否を決定することになる。



とはいえ、具体的にどのトピックを扱い、どのような質問を投げかけるかなどの一切は面接官に委ねられている。日本の赤本のようなものは存在せず、受験生は「なんだか難しい質問をたくさんされるらしい」という不安を抱えてやってくる。そのような受験生の緊張を和らげ、面接の場所に案内したり、待合室で質問に答えたりするのがsheepdogの役目だ。今年もSheepdoggingをしながら、自分が同じように面接を受けてから早三年、来年彼女たちが入学してくる頃には私は卒業しているのかとちょっぴり感傷的な気分に浸る今日この頃である。

シープドッグの心得。3ページに渡って入試の手伝いにあたっての注意事項等が記されている。



ねっとわーくSAITAMA 1月号より)