ケンブリッジの風 23 『書籍と赤ん坊』 | 019|まる・いち・きゅう

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丸い地球をまわりながら考えていることの記録

ケンブリッジの大学図書館は蔵書が多いことでも有名だが、数多くの貴重な書籍が保管されていることでも知られている。この大学図書館はただ蔵書が多いだけでなく数多くの貴重な書籍が保管されていることでも有名だ。それらを定期的に一般公開することで知の変遷・知の歴史を市民に伝えることも大学図書館の重要な役割である。図書館内部の各所に設けられている常設展示のほかに図書館の入り口付近には特別展示室があり、数ヶ月毎に違ったテーマで展示が行われる。



私はこの特別展示が好きでよく足を運ぶのだが、昨年7月から12月にかけては、Books &
Babies – Communicating Reproduction
という展示が行われていた。この展示は人類の生殖の歴史、生殖に関する科学技術の進歩を軸に据え、書籍や新聞・雑誌、ポスターなどの印刷媒体を通して我々の生殖というものに関する態度や捉え方、そしてその変遷を紐解くことを趣旨としていた。



驚いたのは展示が扱う資料の幅広さだ。古いものはギリシャ神話や聖書、新しいものになると昨今のクローン技術やDNA鑑定に関する本まであり、時代とともに私たちの生殖に関する理解と焦点がどのように移り変わってきたかがわかるようになっていた。また文化的な違いに関しても敏感かつ客観的であったこともこのテーマ展示に好感を持った理由のひとつだ。宗教による結婚や出産に関する考え方や科学技術に対する態度の違いも偏見なく説明されていた。中国の一人っ子政策のポスターの展示などもみられた。妊娠・出産・家族といったものは全人類に共通するからこそこのような時間的、地理的、そして文化的に深みのある展示は意義がある。


1850年にダーウィンが息子の誕生を知らせるために書いた手紙 



科学技術と私たちの生活がどう相互に作用しているかは21世紀に生きる私たちが真剣に向き合わなければならない問題だ。原子力などの産業・軍事関連の技術もそうだが、今後特に物議を醸すであろうと思われるのは生殖や医療に関わる科学技術だろう。先学期の社会学の授業ではクローン技術や体外受精などの例を扱いながら、私たちは段々と技術を利用する立場から、技術に支配される立場になってきているのではないかと主張する社会学者について学んだ。先月行われた十色会(11月号参照)のセミナーでも日本の大学に所属するお医者様が胎児の遺伝病に関する情報公開や、個人のDNAに関する情報についての取り扱い方が今後ますます難しくなっていくだろうと話された。



展示からの帰り道、灰色の冬空を見上げながら一体30年後、私たちはどのような科学技術と共存しているだろうかと考えた。



 (ねっとわーくSAITAMA 2月ごうより)