前号 今年の粉飾を把握する〔2016年〕- 小売業の窮地 -(1)の続きを配信致します。
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【2】 今年の粉飾を把握する〔2016年〕- 小売業の窮地 -(2)
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【今年の傾向】
実に、21社中9社(43%)が利益捻出型の粉飾だった。
特に小売業において、利益捻出型の粉飾が多かった。
インバウンドの爆買いの反動、消費不況などにより、小売業は苦境にある。
昨今、百貨店やスーパーの再編、アパレルの小売のリストラをなどのニュースは耳にする。
苦境にある業界は、「利益を作成する可能性がある」と疑っても、損は無い。
【粉飾のテクニック実例集】
今年は、下記のようなテクニックを用いて、不正会計が実行された。
〔マツモトキヨシホールディングス〕
上司からの強制的な指示により、担当者が棚卸データを改竄し、改竄データのみを経理担当者に渡し、経理担当者が会計システムに入力するという手順で、棚卸資産を過大計上して、利益を捻出していた。
〔ユナイテッドスーパーマーケットホールディングス〕
実体の無い架空の売上を計上したことによって発生した架空売掛金に対して、付け替えや「仮払金」「立替金」等の名目で出金した資金による消し込み等により、滞留売掛金が表面化しないようにした。
◆チェックポイント
→ 架空売掛金の消し込みとして、「仮払金」「立替金」はよく使われる科目である。
〔曙ブレーキ工業〕
取引先の適正在庫量を大幅に超える量の商品の「押込販売」し、各期末の売上高及び営業利益を過大計上した。
商品は自社工場から出荷したが、取引先の営業所を含む倉庫には適正に収容しきれない商品を、実質的に当社が賃借していると評価せざるを得ない外部倉庫に保管していた。
会社全体において「押込販売」なる言葉が不用意に用いられていた。
〔ジョイフル本田〕
期末の実地棚卸の際に、見本品、サンプル、什器備品等の無評価品に売価をつけて棚卸資産として計上していた。
棚卸原票を改ざんする方法としては、金額や数量の数字を書き換える(線を書き足して「1」を「4」にする。)、インクを消す薬剤を使用して数字を書き換える等の方法が見られた。
◆チェックポイント
→ 数字を書き換えるために、インクを消す薬剤を利用するのは興味深い。
〔日本ハウスホールディングス〕
監査法人による売掛金残高確認状は、残高上位の得意先数社に対して送付されていたが、ビール副課長は、意図的に多数の得意先に分散して架空売上を計上していたため、確認状送付の相手先には選定されなかった。
実地棚卸では実際は空のタンクにビールが貯蔵されているように見せかけるために、醸造品質課副課長に協力を仰ぎ、タンクのメータに細工を施していた。
◆チェックポイント
→ 在庫があるように見せるためにタンクのメータを細工するのは興味深い。
〔ホウスイ〕
着服行為は、小口現金や預金から仮払金として出金した後、売掛金、諸資産科目に振り替えたり、架空経費や架空割戻しを計上してたほか、特定仕入先からの請求書を偽造するなどの方法により着服を行っていた。
◆チェックポイント
→ 仮払金は、資金流出の常套手段。
〔高田工業所〕
当社が、高田プラント建設及び甲社から受領していたキックバックの金額は、当社による発注額の5割から6割程度に相当するものでありました。
◆チェックポイント
→ 50万円の仕事を100万円として、水増し発注。
50万円をキックバックで受領し、交際費に利用するという極めて不健全な取引例。
〔サイオステクノロジー〕
SIIIS(連結子会社の旧商号)は、協力外注先の協力を得て、取引実体がない架空の業務委託費用、又は実際に支出が必要な額よりも多額の業務委託費用などを協力外注先に対して支払うことにより事業費の水増しを行った上、当該水増分を、協力外注先が直接、又は関係事業者を介して間接的に、協力外注先又は関係事業者のSIIISに対する別件コンサルティング業務の委託費用の名目でSIIISに還流させていた。
上記の手口によって水増しを行った事業費を、補助対象経費の実績に含めてNEPC(一般社団法人新エネルギー導入促進協議会)に報告することにより、過大な補助金(補助金は補助対象経費の2分の1)を受け取っていた。
<取引概要図(報告書より抜粋)>
◆チェックポイント
→ 架空及び水増しの発注によって事業費を多くしている事例。
事業費が大きければ、補助金も大きくなる(経費の2分の1)ことを悪用した。
支払ったお金はコンサルティング費用として、シャケの如く還ってくる。
〔テクノメディカ〕
採血管準備装置の売上取引の一部に関して、実際にはエンドユーザーである病院等に納品していないにも関わらず、TMCの直接の販売先である顧客の検収を受けたかのような外観を作出することにより、売上高の前倒し計上を行っていた。
このような前倒し計上を「先上げ」と称していた。
〔住友電設〕
逆算して既発生原価比率が高く、採算の低い案件について、B工事部長とC業務課長で、他の工事案件への原価付替の試案を作成。
A副社長の承認を経て、四半期決算月には、原価を付替えていた"
〔パスコ〕
受注案件に対して、別途枝番を付してフェーズに分割した上で計画原価を見直し、追加した枝番部分には利益率が高くなるように低
い原価率を割り当てた上で、当該追加した枝番に原価を計上し、当該枝番を先行して進行・完了させ、これにより本来翌年度に
計上するべき利益を前倒し計上した。
<前倒し計上資料(報告書より抜粋)>
◆チェックポイント
→ 売上や利益の計上時期に恣意性が入りやすい工事進行基準の悪用事例。
〔ジャパンフード&リカーアライアンス〕
盛田会長(ソニー創業者の息子)の国内宿泊費が発生している期間に、盛田会長が海外に出張していることを示す資料が存在した。
さらに、東京で宿泊費が発生している期間に、名古屋で飲食していることを示す資料が4 件存在した。
東京に社宅があった2015年8月に、東京で宿泊費が発生していた。
盛田会長の自宅名義で発送していた中元・歳暮とみられる費用を会社の交際費として計上していた。
盛田会長が利用したJRエクスプレスカードの使用履歴(2014年4月から2015年3月までの間)において、JRの回数券と思われる購入履歴として235万6000円(168枚分)が記録されていた。
◆チェックポイント
→ ここまで会社を私物化されるケースは、滅多にない。
【ベストオブ不適切な会計に関する調査報告書】
独断と偏見に基づく、今年の一読に値する報告書は、ジャパンフード&リカーアライアンスである。
“内部統制”という言葉の虚しさを感じる一品である。
ソニーの創業家の息子である会長に対して、会社としても、組織としても、何ら歯止めが効かなかった。
JRの回数券235万円6000円分の購入は、目に余る。
元兵庫県議の野々村氏、富山市議の実態のない政務活動費の請求などの事例と同様のことが起きたと言えるだろう。
また、独立調査委員会の報告書が3つもあるという稀有な事例でもある。
時間に余裕がある時にご参照ください。
<ジャパンフード&リカーアライアンス_調査報告書(2015年11月6日)>
http://alox.jp/dcms_media/other/151106_2538.pdf
<ジャパンフード&リカーアライアンス_調査報告書(2015年12月8日)>
http://alox.jp/dcms_media/other/151208_2538. pdf
<ジャパンフード&リカーアライアンス_調査報告書(2015年12月18日)>
http://alox.jp/dcms_media/other/151218_2538.pdf
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【3】 史上最も“期待値の低い”の米国大統領の誕生
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クリントン氏とトランプ氏は、政策を語るよりも、お互いの失策や欠点を指摘することに熱心だ。
結果として、両者は、史上最も“期待値の低い”大統領候補となっている。
ただ、二人にとっては、これはある意味では好都合かもしれない。
“期待値が低い”ことから、大統領就任後のちょっとした善行が、「何だ、結構できる大統領じゃないか」ということになりやすい。
さすがにトランプ氏が大統領になることはないと思うが、メール問題事件の再捜査がはじまったクリントン氏も磐石ではない。
11月8日の選挙結果は、どうなるやら。
もし、トランプ氏が大統領になったら、それは、イギリスのユーロ離脱を超える衝撃となり、不測の事態が四方八方で起こるのではないでしょうか。
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【発行・編集】“倒産・粉飾ウォッチャー” 塙 大輔
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