━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2010.5.31
オックススタンダードメールマガジン 『 S T A N D A R D 』
上場審査の形骸化 -エフオーアイ(FOI)- <編集:HNW>
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『恒例の倒産ラッシュ』
例年通り、5月は上場企業の倒産が多かった。
2010年5月6日 コマーシャル・アールイー
(ジャスダック:証券コード8866)
2010年5月14日 プロパスト
(ジャスダック:証券コード 3236)
2010年5月21日 エフオーアイ
(東証マザーズ:証券コード6253)
3月決算の上場企業は、期末後45日以内に決算短信を開示
しなければならない(5月15日がデットライン)。
決算短信をリリースする時期は、役員が前期の結果と
来期の計画(資金繰り計画含む)をレビューする。
レビューの結果、取締役会にて倒産を決議することがあるのだろう。
(また、「決算短信リリースの遅延」を繰り返し、
「監査法人の辞任・交代」の上で、倒産するケースも多々ある。)
取引先に“上場企業で業績が思わしくない会社”が存在するならば、
決算短信のリリース時期を把握しておかなければならない。
それでは、OXメルマガ『 S T A N D A R D 』をお楽しみください。
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上場審査の形骸化 -エフオーアイ(FOI)-
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オックススタンダード(株)
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【報道概要】
2010年5月21日、エフオーアイ(東証マザーズ:証券コード6253)
は、東京地方裁判所に破産申請した。
上場申請時に提出した有価証券報告書に粉飾があったとして、
5月12日に金融商品取引法違反容疑で証券取引等監視委員会の
強制調査を受け、18日には東証が整理銘柄に指定、
6月19日での上場廃止が決定した。
粉飾報道以降、信用不安となり、取引金融機関から預金債権を
凍結され事業継続が困難となっていた。
---- 分析情報 ----
【会社概要】
社名 株式会社エフオーアイ(東証マザーズ上場 )
証券コード 6253
業種 独立系、半導体前工程装置のベンチャー
従業員数 196名(連結)
所在地 神奈川県相模原市中央区小山1-1-10
監査法人 公認会計士 桜友共同事務所
主幹事 みずほインベスターズ証券
破綻日 2010年5月21日
【OX理論で分析】
OX格付 BB 【37】(2009年3月連結決算)
【分析表1・2】
http://www.ox-standard.co.jp/pdf2/100531_foi.pdf
---- 終了 ----
【歴史に残る粉飾事件】
エフオーアイの粉飾は、自作自演の架空売上であり、
その手法自体は目新しくない。
しかし、歴史に残る粉飾事件となるだろう。
<理由>
①売上高60倍の粉飾
売上高2億円を118億円に粉飾した。
②最短の上場廃止
2009年11月20日に上場し、2010年6月19日に上場廃止。
上場後、わずか7ヵ月で上場廃止となった。
③上場審査の信頼性失墜
会計監査を行う公認会計士、東京証券取引所、
主幹事証券の3社が上場審査したにも関わらず、
粉飾決算の会社を上場させてしまった。
【分析解説】
上記のOX理論で記載した分析表をご覧になって
頂ければ分かるとおり、評点がボーダーラインの
「40点以下であること」、アラームコメントにおいて
「資金収支が悪く1年以内の破綻の恐れあり。」
「販売拡大に背伸がみられる。」
「恒常的に支出超過が続いており、
資金繰り上経営のスリム化が急務。」
「債権回収ないしは在庫の持ち方等に難あり、
未実現利益計上の疑いが強く実態は公表よりも低い。」
と記載されていることから、資金繰り評価を命題として
OX理論の分析結果として妥当な分析と言っても差支えはないだろう。
しかし、こんな疑問を持つ人がいるはずだ。
「不一致係数と粉飾係数の評点が高得点となっている。
100億円近い粉飾している会社の分析として、
両指標の得点が高いのはなぜか?」
※不一致係数と粉飾係数
●不一致係数とは
売上高・在庫活動の推移と債権・債務との推移を対比させ、
両者間のアンバランス額(不一致額)を算出して、月商比で評価。
不一致係数≒「財務上の不一致額評価」
●粉飾係数とは
不一致係数により算出された不一致額から、粉飾額について
粗い推定を行い、それが自社の体力(支払余力額≒自己資本)
との関係で、どの程度の比重(重み)があるのか評価。
粉飾係数≒「不一致額に対する耐久力」
【粉飾を見抜く方法】
OX理論では、直近の決算書との過去の決算書の比較によって、
理屈に合わない数字を炙り出す。
なぜ、過去の決算書と直近の決算書を比較するのか?
それは倒産する会社の多くが、直近もしくは前期の決算から
粉飾に手を染める(粉飾の額が膨らむ)からである。
それゆえ、OX理論では、前々期(2期の場合は前期)の決算書を
正常な数値とみなし、直近の決算書に異常な数値がないか計算する。
【OX理論の弱点】
正常な数値として扱う過去期の決算書が粉飾されて場合、
直近の決算書と対比しても異常なデータを抽出できない。
これはOX理論の弱点といえる。
エフオーアイの分析では、2007年の決算数値を正常と見なし、
2009年の不一致係数と粉飾係数の分析をしている。
その結果、不一致係数は7点、粉飾係数は10点という評価になった。
【エフオーアイの2008年以前決算は適正?】
2009年3月期の決算書において、売上2億を118億円と
粉飾したと報道されている。
それ以前の決算数値は信頼できるのだろうか?
つまり、粉飾はされていないのか?
≪エフオーアイの決算数値推移≫
〔売上〕〔販売債権〕〔経常利益〕 (単位:億円)
2009年 118 228 20
2008年 94 182 12
2007年 70 134 11
2006年 48 77 7
2005年 31 46 0.8
上記の数値推移をご覧になれば、
販売債権が売上の2倍あることに気付くだろう。
エフオーアイの有価証券届出書によれば、
販売債権が売上の約2倍となる理由は、
半導体製造装置の販売から検収及び回収までに
最長2年6ヶ月を要するからだそうだ。
一概に比較はできないが、競合と目される東京エレクトロンや
TOWAは、販売債権が売上の2倍ということは有りえない。
販売債権は多くても売上の3分の1程度である。
また、上記の両社は半導体市況により、売上が乱高下している。
2009年3月期決算における売上高は、前期に比べてほぼ半減した。
≪売上推移≫ 〔TOWA〕〔東京エレクトロン〕(単位:億円)
2009年 115 5,080
2008年 257 9,060
2007年 251 8,519
2006年 196 6,736
2005年 241 6,357
しかし、“半導体製造装置メーカー”であるエフオーアイは、
半導体市況の影響を受けることなく、業績は“常に右肩上がり”だ。
その他、エフオーアイはメーカーであるにも関わらず、
仕入債務や棚卸資産が少な過ぎる点も気になる。
【推測】
エフオーアイの2008年以前の決算書について、
粉飾という報道はされていない。
しかし、上記の決算書分析や競合他社との比較等を考慮すると、
上場という目的を達成するために過去から少なからず粉飾を
してきたのでは?と感じる。
(限りなく黒に近いグレーという表現に留めます。)
→2010年6月10日追記
グレーではなく、真っ黒だったようです。
【総括】
企業審査担当者がエフオーアイの決算書を見た場合、
100人中100人が、「何なんだ、この決算書は?」と
感じるだろう。
それ程、通常では有りえない決算書であり、
何でこの会社が上場できたのか不思議でしょうがない。
おそらく、会計監査した会計士も東京証券取引所も
主幹事証券も、一部の人は決算書の異常性に気付いていただろう。
しかし、その異常性に目をつぶらなければならない状況、
上場による利益やメリットの存在が、
“正常な審査をさせなかった”と考えられる。
そういった意味で、エフオーアイの粉飾事件は、
粉飾の問題というよりは利益に目が眩んだ一部の人々を
コントロールできない制度に問題があると言えるだろう。
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【編集後記】
飛行機に乗る機会があった。
窓際の席に座り外を眺めると、そこには際限なく続く地平線、
「世界は広いなぁ」と思った。
大海原。
幾多の船。
どこまでも続く地平線。
幻想的な雲などなど。
少し感傷的な気分になり、「世界は広い」が
「私のいる世界は狭いな」と感じてしまった。
この大きな世界において、私が知っている範囲は極めて狭い。
関与できる範囲も狭い。
活動する範囲も狭い。
ただ、逆に言えば、膨大な未知の世界があり、
そこには私をインスパイアするような事があるかもしれない。
「礼節をわきまえつつ、もっともっと貪欲に
外部の世界へアタックしなければ!」と思う次第です。(HNW)
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<決算書の視覚化>
なかなか面白いサイトがあったので紹介します。
http://analize.blog64.fc2.com/
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