月刊BOSS 2006年11月号
レギュラーガソリン144円。2006年8月の全国平均店頭価格だ。原油の高騰が1年間で15円もの値上げを引き起こした。この影響を受け、石油元売り会社は“高収益企業”へと生まれ変わった。2006年3月期の決算では、大手がそろって最高益を記録している。最大手の新日本石油は、売上高が4兆9241億円から6兆1179億円、経常利益は2124億円から3091億円へと飛躍した。OX理論では安定した財務力を評価している。
新日本石油 :AA【76点】
しかし、石油元売り会社の利益には、“会計上のマジック”が存在する。それは棚卸資産の評価方法に起因するものだ。多くは、総平均法に基づいて棚卸資産を評価している。総平均法とは、期首棚卸高と期中仕入高の合計額をそれらの総数で除して総平均単価を求める。これに期末の棚卸数量を乗じて、決算時の価額とする方法である。要はいつ仕入れたかに関わらず、期末に全てを合算平均して単価を求める方法だ。
現状のような原油価格の急騰局面では、期首の安価な在庫によって全体の原価が押し下げられ、“在庫評価益”が発生する。新日本石油の場合、1664億円の在庫評価益が発生している。実に経常利益の半分以上にも達している。総平均法を利用している昭和シェル、新日鉱ホールディングス、コスモ石油は例外なくこの恩恵を受け、実態とは乖離した利益が計上されている。
しかし、当然ながら在庫評価益はあくまでも会計上の利益であり、現金収入を一銭ももたらさない。右記のグラフは、新日本石油の経常利益と営業キャッシュフロー、棚卸資産の経年変化を表したものだ。このグラフから、在庫を仕入れる程に経常利益は増加するが、現金収入は反比例して減額していることが一目瞭然だ。
石油元売り会社には、より透明性が高い「後入先出法の低価法」に基づいて棚卸資産を評価している企業もある。どの会計方針を採用するかは経営者次第だが、「会計上のマジック」により、経常利益が2倍になる決算書は見たくない。
新日本石油株式会社
証券コード(市場) 5001
(東証1部)
OX格付【評点】 AA【76点】(2006年3月連結決算)
発行元 オックススタンダード(株) http://www.ox-standard.com/