あれはなんだ
その言葉だけが
今も焼き付いている
上空を飛ぶ
黒い影の群れから
何かを削り取りながら
流れるように大きな鉄の雨が降った
轟音と共に
川には悲鳴が溢れかえった
私は
母の手に惹かれ
その流れに
逆らっていた
いつもは温かなその手
酷く
酷く
冷たかったような気がした
地震も大雨も降ってはいない
其処に在る大きな焔の波は
皆
空から降ってきた
どころどころに
黒い塊が転がって
天上を握り締めたり
地面を掘り返していた
ただ・・・
母が立ち止まったそれだけは
兄と叔母と、爺様であると
理解した・・・
私の影のようにゆらゆらと歩く
母
どこか青白く
どこか、和紙の字のごとく
あるようでないもの
流れにも逆らうことなく
誰か男の声に殴られても
ただ・・・
はい、すいませんと
その体より細く答えるだけだった
見知らぬ丘
見知らぬ闇は
私の頬も足も
擦り傷だらけにする
見知らぬ影は
川を越え
村を過ぎ
名も知らぬ山へと続く
頂から零れるのは
気休めの慰めあう声と
呻き声
私は
声も出さず
母と二人
茫然と唯一点を眺めていた
一見、何かしらを伝える狼煙のように思えるそれは
思い出の詰まった私の居場所
声に出すものか
言葉にするものか
口もとを縛られているわけでもない
なのにがっちりと閉ざされた
私の意思が
そうしていた
母が、隣で
人形を水で濡らしたような姿で
立っていた
喰う物、喰われるもの
奪われるもの、奪う者
体一つなんて者は
どこにでもいた
羽織るもの一枚あったら
それだけでまし
服を持っていれば
もっとまし
土で汚れようと
汗で臭っていようと
手放すことが
在り得なかった
その時代を生き抜いて
私の背を見送るように
母が逝く
笑うこともなく
悲しむことも
怒ることも
楽しむこともなく
ただ、眉間の皺を伸ばして
のっぺらな顔で
棺の中で眠っている
坊主のお経の中で
火の中に飲み込まれるとき
嫌でも思いだす
ただ
あまりにも小さい
だからだろうか
それが決別大火ではなく
保護らかで
寂し気な灯火のように思えた
だからだろうか
もう一度
今一度、抱きしめたいと
思えてしまったのは・・・
本日は晴天なり
本日は晴天なり
旅逝く皆さま
本日は晴天なれど
小道を行く際は
小さな明かりを忘れずに
灯していかれよ
本日は、青天、なり・・・
byキケロ