一目惚れ
たんぽぽは揺れる
穏やかな日常の中で
ありふれた音を含んだ風に
つつかれて・・
君の髪は揺れる
誰もいない春休みの校舎の裏で
着る必要もないはずの制服姿で
しゃがみ込み
金色のたんぽぽをじっと
見つめている・・・
少し変わった子
小さな背中を
立ち入り禁止の校舎屋上から
静かに見下ろした
小鳥たちが双眼鏡の中で
大きく膨らんだ
鶯や四十雀
楽しそうな囀り
何ものにも邪魔されることなく
過ごしていたはずなのに
なのにそこに入り込んだ異物は
彼女だ
まるで未だ春の中に入り込めていない
雪のような雰囲気
はぁ・・・
双眼鏡を下ろし
気分を害されて
せっかくの日和を押しつぶした溜息
どうせなら
いつまでそこに居るのか
見ててやろう・・・
本当に動かない
何処かの切り株に
セーラー服でも着せたのか
そう勘違いしてしまうほどに
日が傾き
校舎と僕の影が徐々に近づいていく
ゆっくりと
ゆっくりと
ふと、自分自身で何をしているのか
解からなくなった
「帰るか・・・」
揺れ動いた
そして、もう一度下の彼女を見た
何故か
こちらを見上げていた
立ち上がって
見上げていた
「なんだあいつ・・・」
もっていた双眼鏡で
おもむろに覗きこんだ
太陽のせいだろうか
透き通った白い肌に
ほのかに紅色の唇
泣いていたのだろうか
潤んだ瞳
それは、多分
眺め、楽しむ小鳥たちとは別物で
僕の鼓動の音も、呼吸も、周囲の音も色もすべて
邪魔にしてしまうような
美しさと儚さを携えたものだった
信じられない
全ての感覚に入り込むほどのなにか
焼き付いてしまうほどの淡い色彩
湧き上がる暖かい感情
其れとは別に
何かに灯る炎
振り返りあるきだす彼女が
見えなくなるまで
僕は
僕は・・・
次の日
たんぽぽは揺れる
穏やかな日常の中で
ありふれた音を含んだ風に
つつかれて・・・
夢でも見ていたかのように
其処には誰もいない
太陽の優しさに包まれて
小鳥たちを眺めた
けれども
彼女の姿が
なんども
なんども邪魔をして
あのつぶらな瞳も
愛らしい仕草も
何一つ
愛でることはできず
ただ、ただ
思い返すたびに
高鳴っていく鼓動を
抑え込むだけで
精一杯だった
「はぁ・・・」
そして、仄かに色を含んだ溜息が
少し冷たい風を
温めた様な気がした・・・
by銀翼のキケロ