帰らない黒猫
(′・ω・)第十話、暇な猫(そのろく)
私の、前足が喧嘩をし始めた。なに、喧嘩と言っているが、ただ単純に先のご婦人に可愛がられ過ぎて、二つの前足の出し方すら忘れかけているだけだ。ぼろ雑巾ならぬぼろもっぷとでもいうのだろうか。たしか、この間のてれびというものを眺めているとき、そんな形の犬がいた気がしたが、なぜか今無性にそれに被っているようで仕方がない。背中の鞄も、更に重く感じる。だが、軽快に歩く弥勒の母は、待ってくれるどころか先に先にと進んでいく。だからだろうか、正直、このきゃろっととやらが入った鞄を放り投げ、どこぞの路地にでも逃げ込みたい気分だ。あぁ、弥勒よぉ。早く帰ってきてくれぇ。そんな風に、半ば不貞腐れかけていた時だ。耳をつんざく音と共に、聞き覚えのある女性の声がした。
「びっくりしたぁ~。」
「・・・?」(はぁん?)
見上げると、いつか弥勒の部屋に来た女の子の大人しい方がそこに居た。私は、じっと見つめた後、自転車に籠が付いているのに気が付き弾丸のごとき速さでその中に飛び込んだ。
「え?ちょ・・・え?えぇ~?」
「にゃーん」(気にするな、ついでに私の家まで送ってほしい。)
困惑する顔めがけて、目いっぱい愛想よく振る舞う。鼻を、鼻に近づけてみたり、尾を振ってみたりと色々。
だが、女の子は首を傾げるばかり。はて、これはもしや、弥勒の友であると理解されていない状況ではないかと、きゅっと鼻に力が籠る。同時に、真っ直ぐな髭が、前に突き出して、ふるふると震えた。