散るは、桜
今、目の前で散る
恋も、花も
昔々に散っていた
恋も、華も
きっと
青空の中で
雨露の中で
乱風の中で
無風の中で
短く
短く
舞い落ちていくのだ
この手に残る
私ではない誰かの温もりが
ゆっくりと
冷めていくにつれて
白と黒の中のそれが色付き
善悪の区別なく
ただ、愛おしさの跡の余韻に浸りながら
すすり、泣いた
頬を熱く
静かに、濡らした
青年と呼ばれた最後の年は
あまりにも美しく
そして
あっけなく幕を閉じた
思い出の中で
いつも桜は
暗がりの中で舞っていた
青白い焔を帯びて
いつも一本
私の傍らで
尽きることなく咲き誇り
無尽蔵に降り注いでいた
遠い遠い昔の出来事を
引いているから、かもしれない
淡い恋心は
汚れた部屋の中に在っても
眩しさを失わず
不思議そうにこちらを見上げてくる
今の、私にはそれが億劫で仕方がない
でも・・・
まだ、どこかに
捨てきれない淡い期待が
燻っているのだとすれば・・・
私は、どうしようもなく
女々しいやつだ
あの楽しい日々
あの駆け抜けた一時
それが背中にくっきりと焼き付いて
忘れられず
君という
太陽を未だに
追い求めている
あぁ、春は嫌いだ
どうにも弱さが顔を覗かせては
淡い紅色の花弁と酒に
酔いに呑まれ
ほろりと涙が溢れては
思い出の中を彷徨う
夢なのか
現実なのか
わからない
だが、あの頃に帰っているのは
確かだった
境界線上で
誰かの手を握り締め
誰かの笑みを眺めた
桜舞う
鶯色と黄白の世界の中で
何かを
語り掛けながら・・・
私も笑っているのだから
by銀翼のキケロ