帰らない黒猫
(′・ω・)第十話、暇な猫(そのご)
右へよっちら。左へ、おっちら。背中の荷物が、歩くたびに左右にズレ込み、私の身体を揺さぶった。何も入っていなかったときは、この小さな鞄とやらは、何も悪さはしなかったが、ものが入った途端、私の毛並みで遊びだしたのだ。歩きにくい。非常に、歩きにくい。
「黒ちゃん、ほらガンバッテ?。」
ぴんと立てていた尾が、しんなりと下がりだしたからだろうか。にこにこと笑みを浮かべながらこちらに掛け声を送る弥勒の母。う~む。常日頃、ゴロゴロとしていたせいなのか体力がなくなっている。むしろ、今までそのようなモノすらなかったのに、いきなり飼い猫に成り下がり、駆けまわるのも、すり抜け、浮遊も出来ないせいか億劫で動き回ることがなくなっていくのは当然。はぁ、運動、するか・・・。徐々に離れては、必死に食らいつき、また離されるを繰り返す。細い二本の足が、恨めしいと、ギラギラと睨めていた。
途中、近所の知り合いなのだろう。声を張り上げたかと想えば、話し始めた。丁度良い休憩だ。しかしながら、家までというと先の先である。自ずと、頭が下がり、堅く、爪が立たないあすふぁるとを見てしまう。
「ニャァ・・・・。」(はぁ・・・)
声を出したつもりはなかったのだが、無意識に出たのだろう。ハッとして、視線を上げ、会話をしていた二人へ急いで送った。キョトンとして、こちらをみると、その片割れ、母の話し相手が何やら悪だくみが浮かんだような笑みを浮べた。うわぁ、面倒くさそう。率直にそう思って、そんな顔をした。
「なにこれ!みうちゃんのちのねこ!?へ~・・・、へぇ~!」
「にゃあぁ・・・。」(なんだよ。こっちみんなよ・・・)
「ね!持ち上げていい!?」
「どうぞ?シルクのような毛触りをご堪能ください?」
「!?」(おいおい、冗談だろ!?)
「おー、さっすがみうちゃん!!でわぁ~、ご堪能するあかぁ~!」
「ふぅ~・・・!」(くるなよ?こっち、くるなよ!?噛むよ?噛んじゃうよb!?)
「ねぇ・・・。」
「何?さっちゃん。」
「これ、あからさまに嫌がられてない?」
「さぁ、私には、ただ耳をたたんで、身体をちょっと引かせて、しっぽを通常の3倍くらいかしら?そのくらいにしてるようにしか見えないけれど。」
「でもさぁ、其れって嫌がってるっていうよね?」
「大丈夫よ。ちょっと待ってて?黒ちゃーん。無抵抗で抱かれないと?解るわよね?」
「・・・・・うぅ・・・・。にゃぅぅ・・・。」(はい・・・)
「おぉ・・・。」(みうちゃん・・・、普段この猫に何してんだろ・・・。みるみるうちに凹んでいくというか、悲しそうにウニ坊主がへなっていく・・・。)
「ほら、ね?」
「お、おう・・・。じゃ、じゃぁ早速・・・。」(なんだろう、この猫、惨めすぎるような・・・。)
「ふにゅ!!」(うご!そこ鞄!食い込む!!)
「おっほぉお!ナニコレ!本当に猫かこいつ!!すべすべつるつる!!!」
「う”ぅ~。」(強く抱きしめすぎ、苦しい・・・)
その後も、暫く玩具にされていた。しかし、眼の前の顔が、異様に見えた。成す術がなかった。