ビター
君の恋物語を聞いた
君の、愛ののろけ話を聞いた
きらきらと笑って
けらけらと幸せそうな声で
私に、問いかけてくる
あなたには、なにかないの?
と・・・
私は、自分の胸に聞いてみる
自身の心にノックして
問いかけた
うっすらと開いた扉の奥は
真っ暗で何も見えない
薄ぼんやりと光る私が、うつむいたまま
こちらを睨み付けて
黙って立っていた
近くには、壊れた椅子と
とても大切に使われているであろう椅子が並んで
置いてある
「なぁ、僕らにあんな幸せそうな話のタネってあったかな?」
「なぁ、僕らにあんなわくわくするような経験ってあったかな?」
「なぁ、僕らにあんな風になれる時ってあったかな?」
幾ら質問しても
返ってくるのは無言
そして、軽く首が左右に振れる姿だけ
それも、壊れた椅子に人差し指を指しながら・・・
思い出したくても
思い出す事ができない
何か大切で、とても悲しいことがあったようで
無かったようなそんな感覚
私自身は知っているようだった
けれども
教えてくれないだろうな・・・
衰えない眼光
それどころか
鋭さが刻一刻と増していく
もう、問いかけることは無理だろう・・・
開いた扉をそっと閉めて
私は、君に向かって
羨ましいねと
やんわりとした間の抜けた声で答えた
不思議そうに首を傾げた君の瞳に
私の
苦く、苦くころんだ笑みが
さらさらと映り込んでいた
君の背中を眺めていた
君の振り返って手を振る姿を眺めていた
きらきらと輝いた笑顔
ふわふわと軽い足取り
さようならという言葉が
こんなにも重くのしかかるものだったなんて
君と再会したその日
初めて知った・・・
ずっとずっと昔
君との約束を信じて待っていた
愚か者
俯いたまま夜道を歩く
ぽつり、ぽつりと
通り抜ける街灯
ぽつり、ぽつりと
繰り返す愚痴と点々と続く涙
幸せそうな顔が浮かぶたびに
押し寄せる悲しみと
嫉妬、悔しさ
伸びる影は黙ったまま
淡々と付いてくる
噛みしめた唇を
やっとのことで開き
放り込んだチョコレートは
苦くて、苦くて
苦くて、苦くて
泣いたまま、噴き出して笑えるほど
苦くて
何が何だか判らなくなった心の奥まで
しっかりと染み込んでいくようだった
くだらないと顔を上げれば
真っ白で
真っ白な
月が真ん中で見下ろしていた
でも、それもすぐに歪んで
どこかへ落ちていった
by幻想師キケロw