帰らない黒猫
(′・ω・)第六話、猫に戻った猫(そのに)
翌日、私は普段どおり彼の後ろに居る。新聞配達を終え、校舎の門を潜(くぐ)り、とことこと歩いている。しかし何だ。周囲に居る女子生徒が、なにやら密やかに話をしているが、何かいべんととやらが在るのか。判らない。私は、無性に気になって弥勒に声を掛けた。
「なぁ、弥勒・・・。」
彼は振り向かず、何だと答えた。なんとなく、声がつれないように思えた。
「周囲に居る、女どもがなにやらコソコソと話しているのだが・・・。」
すこし、声を掛け難い背中に、問いかける。
「あぁ、そりゃ御前が原因だ。」
弥勒が言う私が原因。はて、私が何かしたのだろうかと首をかしげた。玄関につくまで、もう一度辺りを見回してみる。やはり、ひそひそとなにかを話している。あまりにも密やかだし、手で口を隠しているため、細めいてはっきりと聞き取れない。
戸を開ける音がした。それと同時に、彼は止まり、私は、彼の片方の足に、鼻先から突っ込んだ。
「いよう、弥勒!・・・・ってその猫どうした・・・。」
「あぁ、先輩チッス。いやぁ、その・・・。付いてきちゃいまして。」
「え?どこから?家?」
「えぇ、まぁ・・・。」
学校の制服と言うものはいささか硬い。私の軟い鼻が擦れて、なんとも言いがたい痛みだ。ん、痛みだと。はっとした、そういえば、妹に抱きつかれたときも、息ができず悶え苦しんだ。まさか、これはまさか。猫に戻った、のかと細い瞳をまんまるにして驚いた。硝子に映った薄黒い、もう一人の自分の姿を見つめながら私は、弥勒を呼んでいた。だが、先輩とやらの会話に夢中で、反応が無い。
「おい、弥勒。」
「ん?なんすか?」
「さっきからニャーニャー呼んでるぞ?」
「あぁ~気にしないでください。いつもの独り言なんで。」
「いつも?ってことは御前んちの?」
「はぁ・・・。」
「どうすんだよ。いくら、懐いてるからってここまでついてこられるとやばいぞ?とくに生徒指導の橋本とか。」
「そうなんすよねー・・・。どうしましょっか・・・・。」
「どうしましょっかっていわれてもな・・・。ん~、とりあえず家に連絡してみれば?」
「それがその、今の時間帯の両親まだ眠ってるんすよ・・・。」
「携帯だろ?」
「出たためしないんすよ。」
「いいから、掛けて見ろって。」
「・・・・解りました。」
【・・・・・・・。トゥルルルルル、トゥルルルルル、トゥルルルルル―・・・・・。おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所に在るか、電源を切っているため繋がりません。】
「父親は?」
【・・・・・・・。トゥルルルルル、トゥルルルルル、トゥルルルルル―・・・・・。ブチ。ツーツーツー】(つっかえねぇ!!!クッソ親父め!!)
「・・・・・・・・。どうするよ弥勒。」
「いやー、どうしましょうね・・・。」
私は、呼べども呼べども振り向かない彼に、戸惑っていた。たまに、チラ見はするのだが、先輩とやらとの会話に戻ってしまう。さすがに此処まで無視されたのは、生まれて死んでから初めてだ。私は、彼の右足の腱にガブリと噛み付いた。
「いって!!?何すんだ黒!」
足を上げて体の正面をこちらへ回した。先輩とやらがその向こうに立っている。でかいな。つま先から、ゆっくりと見上げていった。彼よりも、更に大きい。髪も銀髪がかっている。染めているのか。いや、瞳の色が翡翠色だ。混血か、それ以外だろう。
「へぇ・・・。」
まじまじと見つめてくる。
「弥勒、こいつ黒って言うのか?」
苦笑いを浮かべ、彼はハイと答えた。
「凛とした顔立ちに、トラ顔負けの堂々とした風格。小さいながらにやるねこいつ。」
彼も、私も先輩とやらの発言に、なにかピンと来ないもののありがとうとぎこちなく答えた。
by幻想師キケロw