これは夢だ。心の中でなんとなく、三度唱えた。それは、左に居るネコが話しかけてきたからだ。
ぱっと見れば、毛並みの艶やかな可愛い黒猫なんだけど。
夏目漱石じゃあるまいし、我輩、ってのは僕の感覚的にはこのネコに嵌ってはいなかった。
「あの・・・ちょっといいかな?」
【む?どうした?人間の子よ。】
「ネコ・・・、だよね。」
【いかにも。我輩は、誇り高いネコであるが、いかに?】
「我輩って、一人称・・・、似合ってないですよ。あなたの可愛い外見に・・・。」
【・・・・・・・・。それを、言ったのは君で三人目だ。】
「・・・・・・・。だよね。(三人?)」
さっきの姿勢を保ったまま、左のネコ(フォン)と話していた。ちらり、ちらり、と見るものの。
どっからどう見ても、ネコだった。いまだに、信じられない。夢のはずなのに、この現実にいるような感覚。
会話は、途切れ途切れ。話題が、頭の整理のほうが先で出てこない。
とりあえず解った事は、ここが夢という現実であること。現実世界で、遣り残したことのある人が来る場所だということ。そして、このネコが・・・。フォンという名前の女の子だったということ。
まぁ、女の子というのは会話の中で流した。だって、聞こえるほうが渋いささくれた男性の声だから・・・。
少々、フォンは不機嫌にはなったが、人に会うのが本当に久しぶりだという。
そもそも、フォンたちネコはその昔、後悔を消すために手助け(?)をした精霊に近い存在だった、らしい。
世界が、科学で発展してから、ほとんどの人は夢を非現実として捉えてしまってこの世界を必要としなくなった。そう、フォンは悲しそうに言った。
僕は、いまいち理解できていない。後悔もしていないし、科学って言ってもあんまり自覚ないし。
このフォンの、舌の上から出てくる言葉に当てはまっていることが、何一つ無かった。
僕は、疑問に思った。
「ねぇ?フォン。」
【む?】
「ずっと気になってたんだけど、後悔をした人が・・・、その・・・、後悔を消す?やり直す手伝いしたんだよね?」
僕は、このとき初めてフォンの顔を正面で捉えた。やっぱり、黄金の瞳がそこにあった。澄んだ、綺麗な瞳だった。でも、偉そうにうなずくのは、気に食わなかった。
【そうであるが・・・。どうかしたのかね?】
僕は、フォンの鼻と僕の鼻がぶつかる寸前まで近づいてこう切り替えした。
「僕には、後悔とか科学とか、そういうの無いのだけれど。どうして入れたのかな?」
フォンの瞳は、さらに大きく見開いた。耳が、聞き違いかとでも言うようにぴょこん、ぴょこんと前後した。銀色の髭がピンと前に突き出した。
【ふむ・・・・。】
吐く息と同時に、フォンは頷いた。
つづく