『Calling You』/乙一 | こだわりのつっこみ

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 「もしもし……」
 「切らないで!突然のことに驚いているだろうけど、これ、いたずら電話じゃないからね」
と、さきほどの声。
 いたずら電話という言葉が、不覚にも、ちょっとおもしろいと思った。何か言わなければいけないと思い、わたしはおずおずと頭の電話に語りかける。特異な状況に置かれたせいか、いつも他人と対峙している時に味わう苦しい緊張感はなかった。
 「あのう……、何と言ったらいいのか、わかりません。今、わたしは頭の中にある電話に向かって話しかけているのですが……」
 「ぼくも同じだよ。頭の中の電話に話しかけている」
(p18より)

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角川スニーカー文庫なんて何年ぶりに手に取っただろう、という感じです。
ライトノベルですよ、今回は。
ライトノベルはそれなりに「フォーチュン・クエスト」とか「スレイヤーズ」シリーズは読んだことあったんですけどね、なかなか新鮮な気分で読むことができました。

今回は、初挑戦の乙一さんの作品、3つの作品が編まれた短編集『きみにしか聞こえない』の表題作、『CALLING YOU』です。
個人的には3つの作品の中では一番好きです音譜
乙一さんの作品は初めて読んだのですが、まずその文体がクセになり、現実世界とファンタジーの部分をうまく絡めていることが興味深かったです。




ではあらすじですが、

リョウは、携帯電話を持っていない女子高生。その理由は、話をする相手がいないから。
彼女は誰かと話をしようとすると身構えてしまうし、真面目すぎるからか相手の社交辞令や冗談を真に受けてしまうのです。
しかしそんな彼女も同級生と同じように、本当は携帯電話を欲しいので、彼女は頭の中に携帯電話を思い浮かべ、妄想を始めます。

すると、突然、頭の中に着信メロディが鳴り、取ってみると男の子の声。
それが冒頭で引用した場面です。
その男の子-シンヤ-も彼女と同じく高校生で、現実世界ではなかなか周りと馴染めないというのです。
現実と照らし合わせてみると、確かにシンヤは現実の世界にいるようです。
さらに、リョウもあてずっぽうに頭の中の携帯電話のダイヤルを押すと、ユミという大学生に繋がります。
そこで、本当に頭の中の携帯電話が存在するということ、そして、その携帯電話には時差のような若干のタイムラグが存在していることを知ります。
例えば、リョウとシンヤの間には1時間の時差があり、シンヤはリョウよりも1時間遅い時間を生きていました。

さて、現実世界とは違い、シンヤやユミとする、頭の中の携帯電話での会話は、リョウをして心を開かせていきます。ユミはお姉さんのように接してくれ、シンヤは自分との会話が面白いといってくれるのです。
あるとき、シンヤは実際に会ってみようとリョウに提案します。
大学生のユミもそのことに対して、リョウを激励します。
リョウは承諾し、シンヤは飛行機でリョウの住む町に向かい、リョウはシンヤを空港に迎えに行くのです。
しかし、物語が動き出すのはここからです。


 では以下にネタバレ含むあらすじと感想を。
 








きみにしか聞こえない―CALLING YOU (角川スニーカー文庫)/乙一
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~1回目 2010.5.17~

あらすじの続きです。

空港に向かうリョウ。しかし、渋滞により、飛行機に乗ったシンヤが先に到着しているはず。
そして、シンヤを探すリョウですが、
彼女の背後から車道をはみ出して猛スピードで彼女に突っ込んでくる黒い乗用車。

あわやぶつかる寸前、不意に誰かが彼女を突き飛ばし、気づくと
仰向けで倒れた男の人が。
彼はリョウを見ると笑みを浮かべ、リョウの名を呼び、そのまま眼を閉じ、動かなくなりました。

しかし、運ばれた病院にて、リョウは気づきます。
自分とシンヤとの頭の中の携帯電話には、(リョウが1時間先の)時間のズレがあることを。
そこで、リョウはシンヤに電話をかけ、リョウはシンヤを追い返すことにします。
これで、シンヤは自分の身代わりで死ぬことなく、自分が車に轢かれることになるから。

しかし、シンヤはその忠告を聞かず、そしてリョウが1時間前に体験したように、リョウをかばって車にぶつかって死んでしまうのでした。

そして、リョウはある確信をもって大学生のユミに電話をかけます。
実はリョウは、自分とユミの間には何年ものタイムラグがあったということ、そして、ユミというのは偽名であり、彼女の正体を知ってしまったのですから。

さて、何年か経ったある日、大学生になった彼女の頭の中に電話がかかってきます。
電話を取ると、彼女は弱々しげな声。
とっさに彼女-リョウ-は、ユミという偽名を使い、高校生の自分と話し始めるのです。


……うーん、本当に粗筋です汗
もっともっと本筋としても重要なキーワード(キーホルダー、ラジカセ、紫色のコートを着た女の子のくだりなど)が満載なのですが、あらすじということで敢えて割愛させていただきました。
この作品はかなりよくできていると思うので、ぜひ作品自体を読んでいただきたいなぁと思います。

この作品に限らず、短編集3つに共通することに、
不幸な現実を背負うことになった主人公が、ささやかなんだけれど幸せなことを見つける
ということがあると思います。

必ずしもハッピーエンドとは言えないんだけれど、作者を恨むほど主人公たちが不幸にはならない。
この絶妙のバランスがとっても面白かったですビックリマーク



   
総合評価:★★★★
読みやすさ:★★★★☆
キャラ:★★★★
読み返したい度:★★★