- 無罪モラトリアム/椎名林檎
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概要:1999年に発表された椎名林檎の初アルバム。オリコン1位には獲得していないものの(2010年現在)、徐々に火がついた椎名林檎ブームに乗って、ロングセラーを続け、100万枚以上を売り上げている。
総論:
様々な雑誌で、日本の名盤の特集が組まれたとき、必ずと言っていいほど紹介されるのがこの椎名林檎の「無罪モラトリアム」か「勝訴ストリップ」です。
多くの男性ロッカーの中にあって、このアルバムは異彩を放っているのです。
それは、女性がロックを歌う、というのがあまり一般的でなかった時代(ここでいうロックとは、エレキギターを持って自分の感情を歌詞に載せて吐露する、というくらいの意味です)、その突破口を開いたものとして記録され、記憶される名盤なのだと思います。
「勝訴ストリップ」ではそのキャラクターを狙いすぎているというきらいはありますが、本作「無罪モラトリアム」は10代の鬱屈や若々しさが十分発揮されているアルバムに仕上がっていると思います。
抄説:★は5つが満点で☆は0.5点。さらに違う色のタイトルにクリックしていただくと偏狭な思い入れの記事に飛びます。
1.正しい街 ★★★★★
乾いた音、ブルースコードの多用、展開部、歌声、どれをとっても到底1stアルバムの1曲目だとは思えぬほどのクオリティの高さ
歌詞は福岡から上京する彼女の心境を綴ったものと受け取れ、「百地浜」や「室見川」といった実在の地名を出すことで非常にリアルに感じることができ、すごく若々しい歌だと思います。
ただ、この名曲、ここではあまりにも語ることが多すぎるので、詳しくは別の機会に語らせてください。
2.歌舞伎町の女王 ★★★★
妖艶な歌声、荒いアコースティック・ギターのコード、場末を思わせるエレキギターの響き。
この歌はシングル曲ですが、この歌で椎名林檎という歌手が、その才能を引き連れていよいよ表舞台に登場ということになります。
その時の心境などを歌詞にすることが多く、あまりストーリー調の歌詞は書かない林檎さんですが、この歌の歌詞は読んでいても面白いほどの情景が浮かんでくる物語風です。
曲に関して言えば、まず1:01からさりげなく転調するところがかっこよく、テンションが上がります。
林檎さんの曲を聴いていると、露骨な転調をあえて避けているような印象を受けますが、この曲のようにさりげなく転調するところが巧い。
さて、間奏はまさかの口笛
都会の吹きすさぶ感じが見事に表現されてて良いです。
曲のラストは、短調でおどろおどろしく終わります。すごいっす
3.丸の内サディスティック ★★★★★
それにしても怒涛の名曲ぞろいですね。。
しかもメロディや歌詞のみでなく、アレンジも手が込んでいて 1曲目からこの3曲目までを通して聴いてみるだけで、椎名林檎というアーティストの才能が十分伝わります。
この曲はアレンジが特に妙で、ギターが一切入っておりません
編成はアコースティック・ピアノとベース、そしてドラム。さらには前奏や後奏を担当するのはピアニカ
このピアニカがまたいいんだ、繊細な響きで。
この曲の助演男優賞はベースと言っておきましょうか、ソロを受け持っております。
しかし、それ以外にも2番のAメロBメロでは自由に出たり入ったりしてかっこいいし、ラストサビの2回目ではこれまでとは変わった動きで聴かせる。
最後には林檎さんのアドリブとピアニカが折り合っているようでそれぞれ独立してうたっている。しかもピアニカのこのソロはエレキ・ギターで弾かれているようなソロなのですが、ここをピアニカという楽器の懐かしさと哀愁を持った音色で奏でているもんですから、非常に表情豊かなのです。
この曲も、「正しい街」と同様、1曲詳説で語りたいと思います。
4.幸福論(悦楽編) ★★★☆
悦楽編となったこの歌は、1stシングルを大胆にアレンジしています。
声が加工され、エレキギターとベースの野太さが印象的ですが、なんとなく勢いで押しているだけで、この曲のもつよさが単調化されている感じがします
1stシングルのアレンジは、ゆっくりめでよく練られた賑やかキラキラガールズロック。
確かにこのアルバムには似合わないとは思うのですが、個人的にはオリジナル版のほうがよっぽど好きなので、そこまで高い評価は出来ません。
愛に対するまっすぐさが目にしみるような林檎さん的には恥ずかしいだろう歌詞なので、1stシングルの持つ初々しさを崩そうという意図なのかも知れませんが、むしろ、曲を壊しすぎ、ふざけすぎにも聴こえます
5.茜さす 帰路照らされど・・・ ★★★★★
印象的なピアノから始まり、のちにストリングスも入ってくるなかなか壮大な曲です。
2番、打楽器のような使われ方をしているアコースティック・ギターの音が◎。
展開部にはギターのワウが用いられてより凝らされ、さらに1オクターブ低い声でユニゾンされている感じが安定感をもたらしています。しかもこの低い声、男声ではなく林檎さんの声なんですよね。声域広いな~。
この歌の肝と勝手に思っています(笑)
終わりまでが若干長いかとも思いますが、まさかのドラムソロで終わるのです。
6.シドと白昼夢 ★★★
夢と現実の境目のふわふわした感じがアレンジでも感じることが出来る曲だと思います。
AメロとBメロはハープのアルペジオがが夢への誘いを表現しているのか、すごく幻想的な雰囲気で、電子処理されたベースやドラムの感じもそれをより強調しています。
それに対し、サビはまるで雰囲気の違う、ロックなアタックで押すのです。
つまりこちらは現実的な感じ。
しかし、そのアレンジがベタ過ぎる印象も受けますが・・・
7.積木遊び ★★☆
なんとも不思議な箸休めな感じの曲です。
思い思いのことを勝手気ままやって音楽を作っているような
ベースから始まり泥臭いエレキギターが加わって前奏開始、途中トロンボーンのもったりとした音色や、音痴な鉄琴がな~んか不気味で、なかなか面白いは面白いのですが、正直AメロBメロは好きなメロディではないので、星は低めなのです。
ただ、個人的に好きな部分は、例えば1:36~の、琴の音色が入った展開部?サビ?の部分です。
8.ここでキスして。 ★★
なんとなーく売れ線的な感じ
十分、椎名林檎らしさは出てるし、新しい。少なくとも発売当初は新しかった。
その前までが強烈なまでに個性を存分に発揮しているためか、この曲は自己主張が弱く感じてしまいます。
単体としては面白いんだろうけど・・・アルバムとしてみた場合ですけどね。
アレンジにさほどの面白さはないし、思いっきり偽物の打ち込みストリングのような音が安っぽさを感じたり、最後の英語の歌詞で締めくくると言うのは、すでに「茜さす 帰路照らされど・・・」で出てきたので「おぉ」って気もしません。
ただ、ドラムのカンカンした音、すごく好きなんですが。
そして、DVDで聴く事が出来ますが、東京事変が演奏した「ここでキスして。」は、かなり聴き応えはあります。
9.同じ夜 ★
かといって、この本気のヴァイオリンは全然好きじゃないです。
むしろ、主張が強すぎて、騒音と熱演のぎりぎりラインです。個人的にはアウトだと思ってますが・・・。
ヴァイオリンが出てこない1番とかは好きなんだけどなぁ。
10.警告 ★
こちらも、「ここでキスして。」と同じように印象が薄いです。
サビもなんだかなぁって感じです。
ありがちなベッタベタなオルガンが・・・
11.モルヒネ ★★★★★
最後は締めます
ありそうでなかったアレンジとかわいらしさがこの曲では堪能できます
編成はベタなアコースティック・ギター、エレキ・ギター、ベース、ドラムに加え、ボンゴや口笛なんかも登場します。
特に面白いのは間奏口笛というのは「歌舞伎町の女王」でも聞かれますが、この「モルヒネ」ではなんともいえない音痴なエレキ・ギターが絡んできます。
NHKのど自慢だったら鐘一つです、この音。
個人的には大好きな歌なんですけどね、ライヴでは全然披露されなかったので林檎さん的には不良作なのでしょうかね(まあ、今後も演奏されないだろうな)