『サイドカーに犬』/長嶋有 | こだわりのつっこみ

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 こうして自分がサイドカーに乗ってみると、またしても自分が飼われているという想像が頭を埋め尽くした。やはりそれはとても心地のよいものだった。

 風が直にあたって気持ちよかった。隣の二人を見上げることができることも、二人のように互いの距離が近くないことも、すべてがよかった。すべての車はこんなふうになればいいのに。
(p39-40)

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近年、小説を原作とした映画作品が多いと思いますが、この作品も映画化されたようです。
今回はサイドカーに犬です。
『猛スピードで母は』に所収されています。



あらすじはというと、

母が家出をし、まもなくして母とは全然違うタイプの洋子さんという女性が住み着くようになった家の娘、が経験した夏休み一ヶ月近くの奇妙な生活が綴られていくというものです。


では以下はネタバレ含むので、いやな方は見ないで下さい。









猛スピードで母は (文春文庫)/長嶋 有
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なんと評価していいのか分かりませんが、一言でいうなら、私の琴線には触れなかったかなぁ。
というのも、まずなによりも、各キャラクターは濃いのに、話が短すぎて入り込めなかったということ。
わずか70ページの中で表現するには、人と人との絡み合いが中途半端だったような気がします。

作品内において最も重要な薫と洋子の関係。散歩を軸としたり、薫が洋子を観察・分析し、実の母とは違うんだなぁということを強く印象付けられたという点では、面白かったんですが、、、どうしてか、のめりこむことはできませんでしたガーン

おそらく、現実にこういう家庭はあると思います。
でもでも、これはドキュメンタリーではなく、小説なのですから、淡々とその状況を語るにはあまりにも足りなさ過ぎる。

それは多分、「なぜ洋子という女性がいきなり尋ね、住み着くようになったのか」ということ、さらに「なぜ洋子は父の愛人となったのか(なりえたのか)」ということの説明があまりにも不足していたからだと思います。
確かに、薫と父の関係は、さほどよくなかったことは分かりますので、こういったことについて両者が膝を交えて話すなんてことはなかったんだろうなぁ~ということは分かるのですが・・・。
でも、そこは父親、洋子、実の母親、薫、弟の関係をより深くするには、多少物語があってよかったのではないかと思いました。

つまらなかったというよりは、なんだか煮え切らない。

例えば、薫のものの考え方や、それに対しての表現は結構好きでした。一部を引用すると、

母が出て洋子さんがやってきた夏は私にとってとても解放感の強いものであり、洋子さんは解放の象徴だった」(p32)とか、

朝御飯が夕御飯になるまで睡眠時間がずれつづけていたことに気付き、さすがの私も少し怖くなった」(p57)とか。

自身の生活が変化
(それも一見するとあまりよくない方に)していくその過程を冷静に分析しているようでいて、実はそんなに物事を深く悲観的には考えていない。
このあたりの実母と洋子さんとの対比、または少し大人になりつつある薫の心情が面白かったです。
この本に収められているもう一つの作品『猛スピードで母は』の小5の主人公、慎とはまったく対照的なのです。


ただし映像化すれば、45分で終ってしまうような作品。。。
冒頭で述べたように、小説作品の映像化というのは、私が今まで観てきた中でいうと、

「あ~あ、原作のほうがやっぱりよかったなぁ~」

というオチで終わることが多いですが、この作品に関しては、

「映像化して2時間くらいでたっぷりと人間関係を見せたほうがいいんじゃないかなぁ~」

と思いました。
映画は観たことないので、観たらその感想もアップしようかとは考えています。




総合評価:★★
読みやすさ:★★★★
キャラ:
読み返したい度:★★