観るものがいなければ映画ではないように~太秦ライムライト | ライブハウスの最後尾より

ライブハウスの最後尾より

邦楽ロックをライブハウスの最後尾から見つめていきます。個人的な創作物の発表も行っていきます。

どうも( ^_^)/


小さい頃、何故か『暴れん坊将軍』のOPが好きだった者です。


そしてこちら、時代劇を舞台にした映画です。


太秦ライムライト






チャップリンの名作『ライムライト』についても、時代劇についてもまったくの無知なので、まずは自分の得意な分野から話を広げていきたいと思います。


音楽にもいろいろな仕事があります。俺があるときプロの人に教えてもらったのは、“リハーサル用のサポートミュージシャン”です。


ソロアーティストになると大抵はサポートメンバーで編成されたバンドを従えてライブをやりますが、実は、本番前のリハーサルに出られないサポメンの代わりに演奏する仕事というのがあるそうです。


無論、本番には出られません。ですが、ちゃんとギャラは支払われるし、良い演奏をして周囲の人たちに自分の顔を売ることもできます。「若手にとってはちょっとしたチャンスにもなる」と、その人はおっしゃっていました。


「一週間前のオファーだったのに、彼(ギタリストだそうです)はセットリストの15曲を全て完璧に覚えてきていた。

リハが終わったあと、一緒に演ってたあるベテランの人が『これ、全部一週間で覚えてきたの?』って訊いてきて、その子が『ハイ』って答えた。そのときは『ふーん』って感じで終わったんだけど、一か月後くらいに、そのベテランの人がその子に仕事を回してくれた。

それが足がかりになって、今では色んなメジャーの人たちのバックでやってる売れっ子になったよ」


俺が感じ入ったのは、若くひたむきなギタリストがワンチャンスを見事に掴んだストーリーというより、そのエピソードを楽しそうに話す人の姿でした。


誰かが、どこかで見てくれている。


映画撮影所の太秦で50年以上切られ役をやってきた俳優を主人公にした『太秦ライムライト』も、そういった話です。


『太秦にエキストラはいない。誰もが演技者である』という矜持を傷つけられ、思わず監督に食って掛かって干されてしまった主人公が新人女優に出会うところから物語は始まります。


ここまでの流れが、良い意味で邦画っぽくない、カラッとした映像でテンポよく展開するので、観ていて飽きません。役者という、さまざまな意味で“待ち”の多い仕事の大変さもライトに描かれています。


主人公香美山が一人で暮らしている理由や、若い頃、大御所に認められ、そのときに貰った木刀を大事に使い続けているところなどは、逆にとても日本映画的で良く、バランスの取れた映画だと感じました。


『殺陣ができれば演技ができる』その言葉通り演技者として大きく育った女優が時代劇に出演することになり、『切られ役になってほしい』とお願いする場面が好きです。


香美山は子供か孫ほども歳が離れた相手に対しても礼節を忘れない優しい性格ですが、同時に寡黙な男で、劇中もあまりしゃべりません。しかし、故郷で自分の幼少期を語るシークエンスではとてもお喋りです。堅い男の愛嬌がでる名シーンだったと思います。


この映画、意外とあっさり終わります。もう少し余韻を、と思ったけど、よく考えればこれで良かったのです。


切られ役は、切られれば終わり、それが太秦の演技者の変わらない生き方でしょうから。