俳諧伝授 -12ページ目

歌仙「灰汁桶の」の巻 22

名残の裏(序破急の急:終結部・短く躍動的に)


1)物うりの尻声高く名乗すて      来(雑)(折立)
2) 雨のやどりの無常迅速       水(雑)
3)昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ    蕉(雑)
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん   兆(雑)
5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり     来(春)(花の定座)
6) 春は三月曙のそら         水(春)(挙句)



名残の裏五句目です。


糸桜腹いつぱいに咲きにけり  去来


│いとざくら○○│はらいっぱいに│さきにけり○○│


季節は「糸桜」で春。花の定座です。


「糸桜」は「枝垂桜(しだれざくら)」の別称。


はら‐いっぱい【腹一杯】
①腹に満ち足りるさま。「―食べる」
②思う存分。伎、幼稚子敵討(おさなごのかたきうち)「身共を―費つかはして、後を放り出すとは」
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]


「腹いつぱい」は、思う存分。俗語ですね。


前句と合わせて、


5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり     来
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん   兆


意訳すると、


(春光を満身に浴びて)糸桜が思う存分咲いていたのだなぁ。
 (そのかたわらで)しょろしょろ水の水流に動かされてだろうか、藺草がそよそよと音をたてている。

でしょうか。


凡兆の配慮を推し進めて、景気の句を付けた。というところでしょうね。


「しょろ/\水に」→「腹いつぱいに」


「藺」→「糸桜」


「咲きにけり」→「そよぐらん」


この、響き合いも見事です。


3)昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ    蕉
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん   兆


から、


5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり     来
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん   兆


への展開です。


ここは花の定座ということもあって、オーソドックスな変化です。


各語間の響き合い、とくに、


「しょろ/\水に」→「腹いつぱいに」


の、俗語どうしの呼応が、いかにも春爛漫といった感じをかもし出していますよね。


かといって、通俗に堕することなく、


「咲きにけり」→「そよぐらん」


きちんと雅な響きも忘れていません。去来もやればできるじゃないの!って、凡兆も思ったかもね。


名残の裏六句目。挙句(あげく)です。


春は三月曙のそら  野水


│はるはさんがつ│あけぼののそら│


季節は「春」で春。


前句と合わせて、


5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり     来
6) 春は三月曙のそら         水


意訳すると、


(春光を満身に浴びて)糸桜が思う存分咲いていたのだなぁ。
 春はやはり三月、曙の空にこそ。


でしょうか。


ここは一巻の最後ですから、小細工なしに前句のイメージを膨らませようということでしょう。


5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり     来
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん   兆


から、


5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり     来
6) 春は三月曙のそら         水


への展開です。


『枕草子』冒頭をふまえて「灰汁桶の」の巻、万尾です。


まん‐び【満尾】
連歌・俳諧で、百韻・歌仙などを完了すること。転じて、物語などが終りとなること。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]


めでたしめでたし。