歌仙「灰汁桶の」の巻 22
名残の裏(序破急の急:終結部・短く躍動的に)
1)物うりの尻声高く名乗すて 来(雑)(折立)
2) 雨のやどりの無常迅速 水(雑)
3)昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ 蕉(雑)
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん 兆(雑)
5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり 来(春)(花の定座)
6) 春は三月曙のそら 水(春)(挙句)
名残の裏五句目です。
糸桜腹いつぱいに咲きにけり 去来
│いとざくら○○│はらいっぱいに│さきにけり○○│
季節は「糸桜」で春。花の定座です。
「糸桜」は「枝垂桜(しだれざくら)」の別称。
はら‐いっぱい【腹一杯】
①腹に満ち足りるさま。「―食べる」
②思う存分。伎、幼稚子敵討(おさなごのかたきうち)「身共を―費つかはして、後を放り出すとは」
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]
「腹いつぱい」は、思う存分。俗語ですね。
前句と合わせて、
5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり 来
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん 兆
意訳すると、
(春光を満身に浴びて)糸桜が思う存分咲いていたのだなぁ。
(そのかたわらで)しょろしょろ水の水流に動かされてだろうか、藺草がそよそよと音をたてている。
でしょうか。
凡兆の配慮を推し進めて、景気の句を付けた。というところでしょうね。
「しょろ/\水に」→「腹いつぱいに」
「藺」→「糸桜」
「咲きにけり」→「そよぐらん」
この、響き合いも見事です。
3)昼ねぶる青鷺の身のたふとさよ 蕉
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん 兆
から、
5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり 来
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん 兆
への展開です。
ここは花の定座ということもあって、オーソドックスな変化です。
各語間の響き合い、とくに、
「しょろ/\水に」→「腹いつぱいに」
の、俗語どうしの呼応が、いかにも春爛漫といった感じをかもし出していますよね。
かといって、通俗に堕することなく、
「咲きにけり」→「そよぐらん」
きちんと雅な響きも忘れていません。去来もやればできるじゃないの!って、凡兆も思ったかもね。
名残の裏六句目。挙句(あげく)です。
春は三月曙のそら 野水
│はるはさんがつ│あけぼののそら│
季節は「春」で春。
前句と合わせて、
5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり 来
6) 春は三月曙のそら 水
意訳すると、
(春光を満身に浴びて)糸桜が思う存分咲いていたのだなぁ。
春はやはり三月、曙の空にこそ。
でしょうか。
ここは一巻の最後ですから、小細工なしに前句のイメージを膨らませようということでしょう。
5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり 来
4) しょろ/\水に藺のそよぐらん 兆
から、
5)糸桜腹いつぱいに咲きにけり 来
6) 春は三月曙のそら 水
への展開です。
『枕草子』冒頭をふまえて「灰汁桶の」の巻、万尾です。
まん‐び【満尾】
連歌・俳諧で、百韻・歌仙などを完了すること。転じて、物語などが終りとなること。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]
めでたしめでたし。