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こころに映りゆく由無しごとを其処は可となく書き付けて
ごうなっだのでありますぐるらめ。

区切りがついたので、新しいことをはじめます。きょうは前説です。

まえがき

規則は、「いろは四十八字すべてを一回だけ用いて現代詩をつくる」というもの、ただひとつ、です。
この規則のことを「四十八鷹」といいます。辞書に、こうあります。

しじゅうはったか【四十八鷹】①[鷹の種類が四八種あるといわれることから]あらゆる種類の鷹。②それぞれの役の名が打ち揃っていること。「主従で——名を残し/柳多留五〇」   (『大辞林』松村明・編 /三省堂)

「色は匂へど散りぬるを…」とはじまる伝弘法の誦(ず)文(もん)を嚆矢として、昔から多くの人が仮名四十八鷹歌を残しています。
「四十八」は縁起のいい数だとされ、無量寿経の四十八願をはじめ相撲の四十八手、忠臣蔵、江戸火消装束、赤目四十八滝など各地の名勝によく見る数字です。
縁起をかつぎ、欲張って48詩つくる気構えです。(あくまで「予定」)

国語学の大家本居宣長もいろは歌を残していますので見ましょう。(『鈴屋集』巻五)、

雨(あめ)ふれば 井堰(ゐせき)を越(こ)ゆる
水(みづ)分(わ)けて 安(やす)く諸人(もろひと)
降(お)り立(だ)ち 植(う)ゑし群(むら)苗(なへ)
その稲(いね)よ まほに栄(さか)えぬ

さすが、です。ただし、このころは「ん」が無かった。
もうひとつ、〈鳥啼く声す〉。
埼玉坂本百次郎作。明治三十六(一九〇三)年、萬(よろず)朝報(ちょうほう)社が「国音(こくいん)の歌を募る」という新聞記事を載せました。一万もの作が寄せられたそうで非常な話題になりました。その一位となった歌です。
素晴らしい歌ですね。
 
鳥(とり)啼(な)く声(こゑ)す 夢(ゆめ)覚(さ)ませ
見(み)よ明(あ)けわたる東(ひんがし)を
空色(そらいろ)映(は)えて 沖(おき)つ辺(へ)に
帆船(ほぶね)群(む)れゐぬ 靄(もや)の中(うち)

ところで、すべてのニホンゴが使えるわけではなく、制約があります。
「気が利きすぎて間が抜けている」というフレーズが気に入って使おうと思っても使えません。「キがキキすギて…」と文字がダブっているからです。
本居宣長も「万朝報」も「〈い〉〈〈ろ〉〈は〉…すべてを、一回だけ遣うこと」というキマリを面白く受け入れているのです。

現代詩は自由詩ですが、更に詩形式(器(うつわ))として極私的ルールをもとに以下創作することにしました。工夫の拠り所にするためです。
9字詰め6行詩です。

総合題を
「金魚ギャラクシー」としました。ギャラクシーというのは英語で「銀河」のことです。金魚銀河。
内容は
———幻代四八鷹六行詩ギャラリー です。

では、
《仮名四十八鷹現代詩》の世界へようこそ——— 


イロハ順のしりとり俳句です。季節は連句の仕来りでルールに準拠しています。【ウラ】は【オモテ】を逆読みしたもので、後半に続けています。

 総覧———
   ———ふりだし———
  【オモテ】
いはひづき ちうまどかかな ごらうじろ  (初春)
ろくあみだ まうでぞよめく ろどのるは  (仲春)
はなのふじ せかいをひとつ ながびはに  (晩春)
にんどうに はなしろくして どあのやぼ  (初夏)
ほたるかご はぜだんたきせ きしがちへ  (仲夏)
へいわさい わかきちのなみ やくろふと  (晩夏)
とほほのこ いくさにてんで さくめどち   (雑)
ちんちろの にはのこはきち くらみけり  (初秋)
りんどうや むらさきひぼに さくりめぬ  (仲秋)
ぬかごめし いつぼしのした うざうこる  (三秋)
るどらくしや ざいせくめらき つなのかを (晩秋)
をかのほし らびらびめもが らびはがわ   (雑)

わすればな このとひよめや たはつきか  (初冬)
かぞへびの りうりくとせに しごきもよ  (仲冬)
よさりては きたかぜしまく くすみばた  (三冬)
だいしがゆ さしれうすらし ゆちやしいれ (新年)
れゐあうと ととのひまして みぎりとん   (雑)
むぎふみの からかぜせおふ のえびこそ  (初春)
そつげふす しやじんはつかは そりもこつ (仲春)
つぎきをふ しあごねねやは まやるむね  (仲春)
ねぎばうず はつかいかつぱ きまねたな  (晩春)
なのはなは きなとひのまふ ししかぐら  (晩春)
らいおどす さみだれしづか でにつけむ  (仲夏)
むしかがり けぶりただよふ しうのりう  (晩夏)

うらぼんゑ くふそうとすず ちつこのゐ  (初秋)
ゐせきこえ はくろのうねり たうたうの  (仲秋)
のくれつゆ このひのものか そこはほお  (三秋)
おくてなみ じごしかすらが はがわさく  (晩秋)
くるひざき よきときしばせ のべがねや  (初冬)
やぶかうじ はかをてまへの てうまやま  (三冬)
まるたひき めうきにまづく とんでいけ  (晩冬)
けだししよし そうしとりだし ひさくてふ  (雑)
ふくわかし さちよきひくぶ よふけのこ  (新年)
こほりどけ はつくのりやば とぎまりえ  (初春)
えびねふの うんちくながし ぎくどいて  (晩春)
てづしまひ ひねもすひまな れくしさあ  (晩春)

あはせせは あをぬひかへす みたけのさ  (初夏)
さばいつぴ まばたきをせよ めのはしき  (三夏)
きらいがう けびたいこるな ひとまふゆ  (晩夏)
ゆくむてに すさがへくたし だはなだめ   (雑)
めはじきす やねむきかぶけ ふますやみ  (初秋)
みみずなく ともなくうたふ はらのむし  (三秋)
じふごやや くつたくはくも にきつにゑ  (仲秋)
ゑがふしに ほかるひきぶし ぼしうのひ  (晩秋)
ひともじや だしにえびにて ふたもじも  (三冬)
もちゆきや ひかりせきらら につしきせ  (晩冬)
せいていや よめとほめさよ とこはいす  (初春)
すみれさく きずすのろくす はくこう京  (三春)

 ——メビウス型【Uターン】オモテ⇩ウラ——
京うごくは すぐろのすすき くされみす  (初春)
すいばこと ぼさめほとめよ やいでいせ  (仲春)
せきじつに ららぎせりかひ やきゆちも  (三春)
もしもたぶ てにひえにしだ やしもとひ  (初夏)
びのうしほ しぶきひるがほ にじふがゑ  (仲夏)
ゑにつきに もくばぐたつく ややこぶじ  (晩夏)
しむのらは ぶたうくなもと くなすみみ   (雑)
みやずまふ けぶかきむねや すきしはめ  (初秋)
めたなばた しだくぺがさす にでむくゆ  (初秋)
ゆふまどひ なるこいたひけ うかいらき  (三秋)
きしはのめ よせをきたはま ひついはさ  (晩秋)
ざのけたみ すべかひぬ をあはせせはあ   (雑)
あさしぐれ なまひすもねび ひましつて  (初冬)

ていとくき しがなくちんう のぶねびえ  (仲冬)
えりまきと はやりのくつは けどりほこ  (三冬)
このけふよ ふくびきよちさ しがわくふ  (新年)
ふでくさび したりとしうそ しよししたげ  (雑)
けいてんと ぐづまにきうめ きひだるま  (初春)
まやまうで のべまでをかは しうかぶや  (初春)
やねがへの せはしきときよ きざひるく  (仲春)
くさわかば からすかしこし みなでくO  (晩春)
おほばこぞ かのものひのこ ゆづれくノ  (初夏)
のうたうた りねうのろくば えこきせゐ  (仲夏)
ゐのこづち すずとうそぶく ゑんぼらう  (晩夏)
うりのうし ふよたたりぶけ りがかしむ  (初秋)

むげつにて かつじれたみさ すとおいら  (仲秋)
らくかしし ふまのひとなき はなはのな  (三秋)
なたねまき はつかいかつぱ すうはきね  (晩秋)
ねむるやま はやねねこあし ふをききつ  (初冬)
つごもりそば かつぱんしやし すふけつぞ (仲冬)
そこびえの ふおせせからが のみふきぬ  (三冬)
んとりきみ てじまひのとと とうあゐれ   (雑)
れいじやちゆ しらすうれしさ ゆかしいた (新年)
たはみすぐ くましせかたき はてりさよ  (三春)
よもぎごし にせとくりうり のびへそが  (三春)
かきつはた やめよひとのこ なばれずわ   (雑)
わかばびら かもめひらひら しほのかを  (初夏)

をかのなつ きらめくせいざや じくらとる (三夏)
るこうさう だしのじほつい しめこかぬ  (晩夏)
ぬめりぐさ にほひきさらむ やうとんり  (初秋)
りけみらく ちぎばこのはに のろちんち  (仲秋)
ちどめぐさ てんでにさくい このほほと  (三秋)
どぶろくや みなのちきかわ いざわいへ  (仲秋)
ぺちかしき せきたんだせば こかるたぼ  (初冬)
ぼやのあと でしくろしなは にうどんに  (三冬)
にはびかな つどひをいかせ じふのなは  (仲冬)
はるのどろ くめよそでうま だみあぐろ  (三春)
ろじうらこ ながかどまうち きつびばい  (三春)
 
 ***

句上(くあげ)

春 初春 7   秋 初秋 7
  仲春 5     仲秋 6
  晩春 6     晩秋 5
 三春 6     三秋 7
計  24     計  25

夏 初夏 5    冬 初冬 5
  仲夏 4      仲冬 4
  晩夏 6      晩冬 2
  三夏 2      三冬 5
  計  17      計  16
新年   4    雑    10

       オモテ合計 48句
     オモテウラ総計 96句

回文俳句(逆読みしても同文)ではなく、匝文俳句(逆読みすると別の句になる)です。連句の式目(ルール)を守りながらの句作りはムズカシいこともありましたが、楽しいこともまた一段でした。二度と再びヤラナイと決意したのもむりからぬことでありましょう。

ひときわ、暑い夏をもっと熱くする所業をおみせすることになり、申し訳ありません。
ではごめんください。

最後の句オモテ「す」ーー「京」と、ウラ「京」ーー「す」の折り返し点です。


す——京 

菫咲く/疵す獐樟/白虹京           (三春)
 すみれさく きずすのろくす はくこう京
京右獄は/末黒の薄/鏈れ魅す        (初春)

季語:菫・三春。末黒の薄(すぐろのすすき)・初春。
獐(のろ):シカ科の哺乳類。オスは三股の角をもつ。ユーラシア大陸に分布。ノロジカ。
右獄(うごく):平安時代京都右京区にあった獄舎。
末黒野(すぐろの):早春、害虫駆除のためと萌え出る草の成長を早めるために野焼きする。その黒々としたなかの、川べりなどにわずかに残す緑の風情を言う。
鏈る(くさる):①長く連なる。つづく。②つなぐ。繋ぎ合わせる。

スミレの花咲くころ、ノロジカは角をクスノキにこすりつける。動物から同類の植物へ——「獐」から「樟」へ——の挨拶、愛情のキスなのだ。小さい幸せ・謙虚・誠実・スミレの花言葉。京の空には〈白いアルカン・シエル〉が懸かっている。
京に残す平安の獄舎あと。末黒のすすき。連綿のもたらす暗黒の美しさ。

双六の「上がり」は「京」。「京」は漢字ではなく仮名の扱いなので、カナの最後つまり「仮名尻(かなじり)」といいます。因みに、いろはの「い」はカナのトップなので「仮名頭(かながしら)」。

 ここでも「京」を仮名として作ってみました。

———帀文(そうぶん)俳諧/
        メビウス連句しりとり駅伝双六
の折り返し点、です。これから帰路はいわば下り坂。須走りで完走です。お疲れさまでした。  
  *
このシリーズは終わりです。ありがとうございました。
         ウロ こと 「ウロボロス34」 拝