回文短歌いろは歌留多「し」その42(再) 泉鏡花 | ouroboros-34のブログ

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こころに映りゆく由無しごとを其処は可となく書き付けて
ごうなっだのでありますぐるらめ。

[し] 泉鏡花(日)

  絲(し)雨(う)三味(さみ)が いと新内(しんない)の しつとりと
    途子(づし)の意(い)難(なん)じ 徒(と)寝(い)紙障子(かみさうじ)

 ———鶴と言われたいい声で新内を語るのは、今は勘当された身分の門付(かどづけ)。障子(しょうじ)一枚を隔(へだ)てて至芸(しげい)で呼応(こおう)する元師匠。音をひそめて聞き入っているのは、糸のように細い雨。 

絲雨(しう):糸のように細い雨。霧雨(きりさめ)。
三味(さみ):「三味線」の略。
新内(しんない):「新内節」の略。
途子(ずし):大路から小路に入る辻。図子。「途子の意難じ」は、門付けの恩地喜多八を謡(うた)いの名手恩地源三郎が勘当(かんどう)したことを指しています。
徒寝(とい):眠りをむさぼる。ここでは、座敷うちで寛(くつろ)いでいること。
紙障子(かみそうじ):紙一重で張った障子(現在の障子)。明り障子(あかりしょうじ)。

泉鏡花(いずみきょうか):『歌行燈』を下敷きにしました。旅籠(はたご)の障子を隔てて対峙(たいじ)するのは能(のう)楽師(がくし)ですが、ここでは新内流しの門付けに脚色しました。

前回ドイツの反戦映画「西部戦線に異常なし」に取材して作りましたが今回は、おなじ「し」ながら、グッと和風にしてお座敷文芸です。鏡花が好きになったのは、友人が鏡花ファンだったからです。そんなにいいかね、と借りた本一冊で鏡花の世界にハマりました。作家の文章には魅力のある文体が必須だと思いました。文体は散文の詩。囀りは韻があってこそのものですから。
町田康でしたっけ、独特の文体を持っていますね。好き嫌いは別として。
ユニークな表現手法が求められているのですね、現代俳句にも。
行き着くところ、ポスターのキャッチフレーズ化ということですかね。