[え] 樋口一葉
柄(え)鏡(かがみ)の にべなきそぶり 告(つ)げし櫛(くし)
けづり不庶幾(ふそき)な 紅(べに)のみ香(か)がえ
———手鏡にうつる女はよそよそしい。髪をくしけずっている櫛のすがたにもとりつくしまがない。くちびるの紅が浮き上がって匂い立ってくる。一葉は、今日中に仕上げなければならない原稿のことを思った。
柄鏡(えかがみ):鋳金製で柄(え)のついた団扇(うちわ)形の鏡。
にべ:①膠(にかわ)。②(ねばりけから転じて)困難。面倒。③愛想。世辞。
庶幾(そき):しょき。①切に願い望むこと。②目標に非常に近づくこと。
紅(べに):紅花から採った頬や口に付ける赤い染料。また、口紅・頬紅。
香がえ(かがえ):聞(か)がえ。「嗅ぐ」の自発・受け身の形。エは、自然にそうなる意。におう。においがする。「あやめの香早うかがえて、いとをかし」(かげろふ)
樋口一葉(ひぐちいちよう):中島歌子に和歌や古典文学を、半井桃水(なからいとうすい)に小説を学ぶ。生活に苦しみながら、『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』といった秀作を発表。文壇から絶賛され、わずか1年半でこれらの作品を送り出した後、24歳6ヶ月で肺結核により夭折(ようせつ)した。
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若いころ、結核で国立村山療養所で入院しました。ストレプトマイシン(ストマイ)という新薬治療が効いて、オペしないで治りました。しかし、クスリの副作用で俗にいうストマイツンボで耳が難聴です。一葉もストマイがあれば若死にしなかったでしょうにね。長生きしてもショムない人間はどこまでもショムないのですけど……
肺病のことをムカシ、「労咳(ろうがい)」といってました。生き残ってただいま老害と言われています。ハイ…