重ね着がノビる或る日の垣根坂
———かさねぎがのびるあるひのかきねざか /
ゆるやかな、だが長い坂にかかって重ね着の男は息が切れました。思いの外、ぽかぽかと汗ばむような日差しの午後でした。
重ね着:冬の寒い時、何枚も衣服を重ねて着ること。厚着。重ね着した衣服を脱いだ時の身軽さは爽快である。ところがいったん馴染むと、なかなか脱げないのである。
「重ね着」と「着ぶくれ」は、歳時記には同じ冬の季語ながら隣同士に項を別にしている。作例を見比べても似通っていてどうも違いがわからぬ。
「重ね着」は、俳句的、「着ぶくれ」は川柳的? 「重ね着」が静的ならば、「着ぶくれ」は、動的?? 「重ね着」にして成因的表現ならば、「着ぶくれ」で結果的表現???
●重ね着す鎌倉熊が過ぎ寝釈迦
———かさねぎすかまくらくまがすぎねさか
見ろ!あの男。着ぶくれてまるで鎌倉山の熊だぜ。寝釈迦のまえを、ほら、いま、テクっている…。
●杵酒代弾まれ先づはて重ね着
———きねさかてはづまれまづはてかさねぎ
餅つきの酒手をはずむといわれて引き受けたはいいが、さてと、この厚着ではどうもね。〈酒手欲しいが杵持てず〉。